第37章 貴方は陽だまり

「ほの花さん、探してきます…！」


突然、先ほどまでは泣き喚いていた須磨が立ち上がった。
すると、同じようにまきをも雛鶴も頷き、立ち上がる。


「…天元様…、ほの花さんのこと大切ですよね？」


そう言い始めたのは雛鶴。
その目はいつもの優しさを含んでいるが、何かを悟っているような眼差し。



「ほの花さん、天元様のところに向かう時、約束してくれたんです。戦いが終わったら私たちに"本当のことを話す"って。」


「…ほの花が…？」


「…私のことを必ず守るって言ってついて来てくれたんです。いざとなったら取っておきの切り札があるからって…。」



それはほの花の稀血。
雛鶴が藤の花の毒を塗ったクナイを使いに行く時に、ほの花は決めていたのだ。

何かあれば自分の全てを使って雛鶴を守ると。
だからついて行った。
足手纏いにならないように切り札を引っ提げて。



「…なんとなくしか取っておきの切り札は分からなかったんですが…、ほの花さんが守ってくれたのは間違いないです。でも…、あの時ほの花さんは"私が"天元様の大切な人だからと言いました。」


妓夫太郎と向き合ったほの花が言い放った言葉は確かに"大事な師匠の大切な人"だ。
しかし、雛鶴はもう言い知れぬ違和感の正体にほとんど気付いていた。


「違いますよね？本当は…天元様の大切な人は私でなく…いえ、私たちではなく、ほの花さんですよね？」


今まで確信ができなかったこと。
でも、ぼんやりと納得もできなかった。
何故納得できないのか分からなくて恥じたこともあった。

澱みのない目で宇髄を見る雛鶴。いや、まきをも須磨も固唾を飲むように宇髄を見ていた。


「……ああ。そうだな。アイツは俺の…大切な女だ。」



その瞬間、パァッと花が咲いたような笑顔になる三人。
まるで呪縛から解き放たれたかのような晴れ晴れしさがあった。


長い長い疑問にようやく答え合わせができたような感覚だ。


途端に脳が鮮明になっていく。
靄がかっていた記憶が甦っていく。


それはあの日まで遡る。


あの日、記憶を無くした日。


花火大会の日。


記憶の中にいたほの花は悲しそうに笑っていた。