第37章 貴方は陽だまり
「俺も可哀想だけど、伊之助がやばいよぉおお!心臓の音がどんどん弱くなっていくよぉお!!」
そう言われて伊之助が此処にいないことに気付いた炭治郎は善逸の言葉に絶句する。
そうだ、伊之助も重傷のはずだ。
心臓を一突きは免れたにせよ、体を貫通した血鎌から毒が体中に回っていた。
「あそこに!あそこにいるよぉお!」と耳の良い善逸が指を差したところには伊之助の足らしきものが見えている。
再び、禰󠄀豆子におぶさると善逸が教えてくれた方向に急いで向かう。
伊之助は仰向けに倒れていてその胸からは血がどんどん流れ落ちて血溜まりができていた。
「伊之助ーーー!!伊之助‼︎伊之助‼︎しっかりしろ!」
いつもならば煩いほど元気な伊之助が炭治郎の呼びかけにうんともすんとも反応しない。
胸に手を当てて見ればどんどんと心音が弱くなっていくのが分かり、冷や汗が流れ落ちた。
「ほの花を…!ほの花は何処にいる?!」
ほの花なら助けられる!咄嗟にそう思った炭治郎は辺りを見回したが、ほの花の匂いはしない。
近くにいれば匂いでわかるのに。
空を見上げてみればまだ月が見えている。
太陽の光を浴びれば鬼の毒は良くなると前にしのぶから聞いていた炭治郎はそれを期待したが、流石に時を進めるのは無理だ。
しのぶに鴉を送るよりほの花を探した方が遥かに早い。
禰󠄀豆子に探してきてもらうか?
だが、そうこうしているうちに着実に伊之助の心音は小さくなっていくのがわかる。
(今、何とかしなければ伊之助は死ぬ…!何で俺は助かったんだ…!何で俺だけ…‼︎)
せっかく四人で力を合わせて上弦の鬼を倒したと言うのに自分だけが助かり、伊之助が死ぬなんてことを考えたくない。
次第に目には涙が溜まり、体は震え出した。
しかし、そこに急に手を伸ばしてきたのは禰󠄀豆子。
禰󠄀豆子が伊之助に手を当てると自ら炎を出してその体を包み込んだ。
こんなこと出来ただろうか?
炭治郎さえ知らない禰󠄀豆子の其れは毒で爛れた皮膚を治していった。
炭治郎が生き残った理由は正しくこの禰󠄀豆子の毒を治す炎だった。