第37章 貴方は陽だまり
「うーーー」
炭治郎は月明かりに照らされる禰󠄀豆子の声で目が覚めた。
心配そうに見つめるその様子は堕姫と戦い鬼化が進んでいたとは思えないほど穏やかで優しい目をしていた。
これが本当の禰󠄀豆子のあるべき姿。
人を喰ったりしない。
禰󠄀豆子は良い鬼なのだ。
「禰󠄀豆子……」
ゆっくりと体を起こすと、その周りの惨状に炭治郎は驚愕した。
辺り一帯が瓦礫の山と化していて、其処に遊郭があったなんて信じられない状況だったから。
「ひどい…めちゃくちゃだ…。」
辺りを見渡している炭治郎にかまって欲しかったのか禰󠄀豆子は頭を擦り付けている。
その様子にちゃんと気づいて頭を撫でるあたり、長男らしい。
「禰󠄀豆子が助けてくれたのか。ありがとう…」
しかし、助けてくれたのは有難いと思う反面、今度はこの惨状から気になるのは他の生存者だ。
「他のみんなは?!」と立ち上がって探しに行こうとした炭治郎の膝はガクンと崩れ落ちて立つことを許さない。
その場に崩れ落ちると膝をついたまま途方に暮れ、少し前の記憶を手繰り寄せる。
(何で…?なんで助かったんだ?俺は…。毒を喰らったのに…。)
そう。炭治郎は妓夫太郎の血鎌を顎から喰らったことで全身に毒が回っていたはず。
助かるかどうかは微妙だったのだ。
首を傾げながら考えていると、遠くの方から「たんじろ〜!!」と聴き覚えのある仲間の声が聴こえてきた。
「善逸の声だ…!」
早くそちらに行きたいが、如何んせん炭治郎は立てない。
どうしたものかと思っていると隣にいた禰󠄀豆子が炭治郎の腕を引っ張り、自分の背中に乗せると声のする方に駆けていく。
どうやら連れて行ってくれるようだ。
割と近くにいたようですぐに見つかった善逸は涙を流して弱音を吐いていてあまりにいつもの善逸すぎて少しだけホッとした気分になる。
「起きたら体中痛いよォォ!俺の両足コレどうなってんの?折れてんの?!誰にやられたの?!痛いよォォ!怖くて見れないい!!」
先ほどまでアレほど勇猛果敢に堕姫に向かっていた善逸は一体何処へやら。
しかし、「無事だったか!よかった」と労う炭治郎にも「無事じゃねぇよおお!」と毒付く元気はあるようだ。