第37章 貴方は陽だまり
顎に刺さった血鎌のせいで炭治郎は「カハッ」と血を吐くが、手に持った刀は離さない。
ギリリ…と握り締めると妓夫太郎の頚めがけて振り下ろした。
(コイツ!!まだ刀を振りやがる‼︎馬鹿が‼︎先刻だって俺の頚を斬れなかったくせになぁあ!)
炭治郎は考えていた。
先ほど頚を斬れなかった理由を。
腕の力だけでは駄目なのだ。
もっともっと全身の力を使わなければ。
(…頭のてっぺんから爪の先まで使え‼︎体中の痛みは全て忘れろ‼︎食らいつけ‼︎渾身の一撃じゃ足りない。その百倍の力を捻り出せ‼︎)
すると、炭治郎に変化が訪れていた。
額の痣が濃く浮き出てきたのだ。
その変化は妓夫太郎も気付く。何事かと目を見開くが、次の瞬間もっと信じられないことが起きた。
血走った目をしていた炭治郎が急に獣のような声を上げ、妓夫太郎の鎌が顎から抜けなくなったのだ。
「ガアアアアアアアアッ‼︎」
(何だ…!?抜けねぇ!まずい!忍に斬られた左腕を早く再生しねぇと…!)
炭治郎は止まらない。
日輪刀を妓夫太郎の首に突きつけるとズズズ…と着実に刃を進めていく。
流石の妓夫太郎も動揺していた。
まさかこんな事態になるとは思いもしなかったのだ。
(畜生…!こんな餓鬼に!まずい‼︎斬られるぞぉおお!)
だが、少しだけ安心材料もある。
妓夫太郎の頚が斬られたとしても堕姫の頚が繋がっていれば再生できるからだ。
堕姫の方は善逸ただ一人しかいない。
"きっと大丈夫だ"と妓夫太郎は信じて疑わなかった。
相乗効果とは二つ以上のことが同時に働き、個々の要因がもたらす以上の結果を生じること。
まさにそれに近いことが起きようとしていた。
炭治郎と宇髄の猛攻に背中を押されるかのように堕姫との戦闘では奇跡が起こっていた。
「ハハハハハッ!アンタがアタシの頚を斬るより早く、アタシがアンタを細切れにするわ‼︎」
そう言うと夥しい量の帯が善逸を襲う。
既に霹靂一閃・神速は使えない。
でも、何とか捌くしか無い。
善逸が再び刀を構えた時、その帯がどんどん斬られて行った。
善逸は堕姫の目の前にいる。
であれば…?
堕姫が視線を外したところにいたのは猪のかぶりものをした男。
妓夫太郎によって刺されたはずの伊之助だった。