第37章 貴方は陽だまり
(何でよ?コイツ…!お兄ちゃんが心臓を刺したのに…!)
信じられないと言った顔を向けるしか無い堕姫はワナワナと体を震わせた。
「俺の体の柔らかさを舐めるんじゃねぇえ!内臓の位置をずらすなんてお茶の子サイサイだぜ!!」
そんなことは普通はできない。
だが、斬られたことには変わりない。
伊之助が重傷なことは変わらないのだ。
毒だって体中に回っているだろう。
「険しい山で育った俺は毒も効かねぇえ!」
強がりだ。
本当は体中が痛くてたまらない。
それでもやらでばならない時はある。
あの日、煉獄に守られて生きていた炭治郎、善逸、伊之助は強くなると誓った。
その想いの強さも絆は誰にも負けない。
そして妓夫太郎の攻撃を捌いている宇髄もまた負けられない理由がある。
桜を見にいくと約束した。
ほの花のことを忘れていた理由を知りたい。
そして、目の前にいる愛おしい女の仇を必ず取るという大義名分があるのだ。
伊之助の刀も堕姫の頚に加わったことで、三人の雄叫びが呼応した。
「アアアアアア!!」
「アアアアアア!!」
「ガァ!アア!ガァ!アアア!」
斬れていくのは頚。
自分達の想いや絆は切れない。
それこそが原動力。
無限の可能性を秘めているのだ。
それは無謀だと思われた戦い。
上弦の鬼など敵うわけがないと思われていた。
「お兄ちゃん!!なんとかして!!お兄ちゃん!!」
(早く円斬旋回を…!!)
妓夫太郎と堕姫。
二人の間にも絆はある。
とてもとても強い絆。
だけど、ほんの少し逸れてしまった道の中で二人は肩を寄せ合って鬼として生きてきた。
それでも
生きてる人間の無限の可能性は
時としてそれを凌駕するのだ。
ザンッと言う鈍い音がしたかと思うと宙を舞ったのは二人の頚。
まさか斬られるわけがない。
妹が斬られなければ…
お兄ちゃんが斬られなければ…
また回復できるのだ。
そう、やられるわけがない。
ゴトッ
ゴトンッ
ゴロゴロゴロ
二人の頚がお互いを確認するまでそう信じていた。
上弦の鬼が人間に斬られるなどあってはならないことだから。
自分達が負けることなど考えたこともなかったから。
二人の頚は静かにお互いを見つめていた。