第37章 貴方は陽だまり
宇髄によって鎌が受け止められた妓夫太郎は驚愕の表情をむけていた。
それもその筈。目の前にいたのは先ほど心臓の音が止まっていた柱だったのだから。
確かに心臓の音が止まったのを確認したのに何故生きているのだ?
片腕しかないのに大きな刀を口で咥えてそれを受け止める姿に鬼気迫るものを感じた。
(…そうか…!死んでなかったのか…!心臓を筋肉で一時的に止めていやがったのか!そうすれば毒の巡りも一時的に止まる)
妓夫太郎は奥歯を噛み締めた。
毒を分解できる自分とは違い、生身の人間が此処まで戦えるものなのか?と。
あり得ないことが起こっているようにしか思えなかったのだ。
「『譜面』が完成した‼︎勝ちに行くぞォォ‼︎」
宇髄は笑っていた。
それこそが待ち望んでいたことだから。
譜面とは…宇髄天元独自の戦闘計算式だ。
分析に時間がかかるのが難点だが、敵の攻撃動作の律動を読み、音に変換する。
癖や死角もわかる。
唄に合いの手を入れるが如く、音の隙間を攻撃すれば相手に打撃を与えられる。
ただし、現状を見れば今の宇髄は毒に体が冒されていて、敵の攻撃を捌くのが限界。
頚は狙えない。
たった一本の腕で日輪刀を振り回しながら宇髄は妓夫太郎を睨みつける。
「俺は耳がいいんだよ…。」
「あ…?」
いきなり何のことを言っているのだ。
とうとう気でも狂ったのか。
しかし、宇髄の顔は怒りに満ちていて、そこにトチ狂っているようには見えない。
「……誰が…生まれてこねぇ方が良かっただと…?」
「……何言ってやがる…?!」
「アイツは…ほの花が、どれほど悩んで苦しんでいたかを知りもしねぇくせによぉ…。お前だけは…絶対ェ許さねぇ。」
『ほの花』それは陰陽師一族神楽家の最後の生き残り。
数奇な運命に翻弄されながらも真っ直ぐに生きてきたことを宇髄は知っている。
生まれてこねぇ方がよかった。
どうせ殺される。
そんな人間一人としていない。
──ほの花の生まれてきた意味がないと言うのなら俺が意味を作ってやる。
鬼に命を狙われるなら何からだって守ってやる。
そうしてこれから先、ずっとそばにいると約束した女を絶対に手放すことなんてない。