第37章 貴方は陽だまり
(…斬れろ‼︎斬れろ‼︎振り切れ‼︎霹靂の神速は二回しか使えない…‼︎足が駄目になる…‼︎)
善逸も善逸でとっておきの切り札としてとってあった【霹靂一閃・神速】だが、瓦礫を抜け出す時に一度使い、後がないのだ。
そして今が一番の好機。
もうこれ以上、頚を斬る機会は訪れないかもしれない。
炭治郎が作り出した千載一遇の機会を作ったのだ。
(絶対に斬る…‼︎絶対に…‼︎)
善逸が最後の攻撃とかけて堕姫の頚を斬ろうとしている時、炭治郎もまた妓夫太郎の頚を斬るために日輪刀を押し付けていた。
「ぬぅぅあああああ!!」
(くそぉ!斬れない‼︎硬い…‼︎)
毒で弱体化している筈なのに全く入っていかないその頚に己の力がまだ足りないのかと冷や汗が垂れる。
しかし、時間がかかるということはそれだけ鬼に猶予を与えるということ。
そうこうしている間に毒を中和してしまうのだ。
最悪な事態はすぐに訪れた。
妓夫太郎の体から再び、血の刃が現れたのだ。
(毒からもう回復した…!巻き込んで斬り裂かれる…!)
炭治郎がどうすべきなのか考えている間もなく、頚を斬ろうと押し当てていた刀が押し戻されてきているのが分かった。
ズズ…
ズズズ……
ガキュイーン……
じわりじわりと押し戻されて遂には頚から離れてしまった日輪刀。
衝撃によろけていては殺される。
炭治郎はすぐに体勢を整えると迫ってくる血の刃に食らいつく。
(あああ!あと少し…!もう少しだったのに…!諦めるな!諦めるな!最後まで諦めるな!)
「この餓鬼ぃいいっ!!!」
炭治郎は嫌な空気を感じ取っていた。
攻撃の速度が上がっていたからだ。
それは妓夫太郎が着実に毒を分解していっている証拠。
(ヤバい…!全回復する…‼︎諦めるな…諦めるな…‼︎)
諦めない。
絶対に諦めるものかと思っていても全回復した妓夫太郎の攻撃を受け続けるのは限界がある。
炭治郎は手負い。そしてたった一人なのだから。
しかし、妓夫太郎の鎌が炭治郎に向けられた時、音もなく現れてそれを受け止めてくれた人がいた。
その背中は頼もしい柱。
(…!!宇髄さん…!!)