第37章 貴方は陽だまり
「おおおおああああ!!」
炭治郎の渾身の力を入れた刃が妓夫太郎の頚を襲う。自分の怪我だって重傷で酷い状態だ。
それでも諦めない。
勝ちたい。負けるわけにはいかないのだ。
皆を傷つけた。
ほの花の里を全滅させた。
諦めたらその人達の無念を晴らせない。
(斬れろ!斬れろ!斬れろ!)
先ほどまで震えていた手はもう震えていない。
強い意志を宿した炭治郎に恐怖はなかった。
「お兄ちゃん!!!」
想定外の状況に堕姫が立ち上がり叫んだ。
まさか兄がやられるなんて?
そんな夢にも思わないことが?
その境遇はいつだってひとつ違えばいつか自分自身がそうなっていたかもしれない状況。
(もし、俺が鬼に堕ちたとしても鬼殺隊の誰かが俺の頚を斬ってくれる筈だ。ほの花のお父さんもほの花にそう願っていた筈だ…!)
あまりに変わらないその状況に見かねて堕姫が帯の刃を炭治郎に向けた。
「ちょっと嘘でしょ‼︎そんな奴に頚斬られないでよ‼︎」
堕姫の帯が妓夫太郎を助けるために炭治郎を襲う直前、雷鳴が鳴り響き斬撃が全ての帯を斬っていった。
その様子に堕姫は驚き、目を見開いたかと思うと空を見上げた。
そこにいたのは瓦礫から抜け出した善逸だったのだから。
──雷の呼吸 壱ノ型
(アンタの技の速度は分かってんのよ!何度も見てるからね‼︎どけ!不細工‼︎)
霹靂一閃 神速 ──
善逸の攻撃は見切っている。簡単に凌げると思っていた堕姫は油断していたと言ってもいい。
人間というのは土壇場で物凄い力を出すことがある。
昔から火事場の馬鹿力とはよく言ったものたが、死戦においては稀に見られるものだ。
しかし、己の力を過信して、人間の実力を見誤っていたことも否めない堕姫。
あまりの速さで頚に善逸の攻撃が入ると目を見開いた。
(速い……‼︎)
予想だにしていなかった速さに驚いている間も無く、帯がビッと破れかけていることに気づいた。
(斬られかけている…!まずい!コイツがこれほど動けるなんて…‼︎)
これは完全なる誤算。
善逸が此処まで動けるだなんて思いもしなかったのだ。