第37章 貴方は陽だまり
殺されて当たり前。
神楽家に生まれた女児は半ばそう言う扱いすら受ける時もあった。
しかし、ほの花の両親は違った。
自分達の代でこの悪き負の連鎖を断ち切ろうとした。
だから生まれた子が女の子だった時、里中の重臣達を集めてその子を守るために大事に大事に守ってきた。
女児にの不思議な能力についてはその重臣達しか知らない機密事項。
もちろんほの花の元護衛達ですらそのことを知らなかった。
"知らない"ことが"守る"ことだった。
知っていれば変に力が入って怪しく思われてしまう。
だからこそ元護衛達にすらほの花の能力のことまで知らされなかった。
それが功を奏し、ほの花が十九になるまで誰にもバレずに生きてこれた。
採血した血でほの花の母・灯里は対鬼舞辻無惨用の毒の調合をし続けてきたが、なかなか形にならなかった。
そしてそのまま里は襲われて全滅を期したのだ。
無念だっただろう。
悔しかっただろう。
唯一の幸運は、数日中に鬼の襲来があると予見した長である宗一郎が護衛と共にほの花を逃していたことだ。
鬼になった父親をほの花が殺せたのは彼に鬼としての素質がなかったこと。
人間としての意識は既になかっただろう。しかし、体に染みついた目の前の自分の娘を忘れられるわけがない。
宇髄のように想いは強ければ強いほど深く体に刻み込まれる。
ほの花の父もまた娘を愛する気持ちが勝ったが故、自ら頚を斬られたのだ。
全ての想いを託そうと思ったから。
炭治郎は妓夫太郎の言葉を聞き、ゆっくりと上を見る。そこには似つかわしくない綺麗な月が炭治郎達を見下ろしていた。
「悔しいんだなぁあ。自分の弱さが。人は嘆く時天を仰ぐんだぜ?涙が溢れないようになぁあ?」
視線をゆっくりと月から妓夫太郎に移した炭治郎は怒りの感情を露わにしたまま、言葉を紡ぐ。
「俺は…俺は……準備していたんだ。」
そう言うと大きく勢いをつけて目の前の妓夫太郎に思いっきり頭突きをかましてやったのだ。