第37章 貴方は陽だまり
「…ほの花、の?」
「ああ、そんな名前だったなぁ。まさか娘がいたとは思わなかったぜぇ。奴ら一言もそんなこと言わなかったからよぉ!父親は命乞いもしてこねぇいけすかない男だったから鬼にしてやったんだ。」
「なんで…!ほの花の里を狙った…!」
炭治郎は不思議だった。
何故鬼たちがほの花に執着していたのか。
だけど、今だったら聞けると思った。
饒舌に熱弁を振るう妓夫太郎に真相を聞く機会だと思った。
ほの花が知りたいかどうかは別として。
聞く機会は早々訪れるものではないからだ。
「…はぁ?目障りな一族だったからに決まってんだろ?俺たちを殺すための薬を作っていやがったから皆殺しにしたまでだ。最盛期と比べたら随分とちんまりしちまっていたらしいが、長の家系の男たちはなかなかの粒揃いだったぜ?」
「…何で…!ほの花のお父さんを鬼にしたんだ…!」
「薬についてちっとも口を割らねぇから仲間にしてやったら口を割るかと思ったが、老いぼれで自制が効かずに暴走し始めて息子を食う始末だから捨て置いたんだ。そういう鬼に"なりきれない"馬鹿は陽光に照らされて何れ死ぬからよぉ。」
高らかに笑う妓夫太郎は悪びれることもなく言い放つ。
ほの花の家族がどれほど無念だったか。
ほの花がどれほど傷ついたか。
この鬼は少しもそこに考えには至らないのだろう。
「それにしてもあそこの長の妻は美人だった。あの女もしっかりそれを受け継いで妙に綺麗な顔立ちで殺し甲斐があるなぁ。あとで頚の骨を折っておかねぇとなぁあ!」
「何故…ほの花を狙う。陰陽師だからか?」
すると妓夫太郎の顔つきが急に変わり、炭治郎を鋭い視線で射抜いた。
「お前は…何もしらねぇんだなぁあ。みっともねぇなぁ。本当に。あの陰陽師の一族に生まれる女の血は俺たち鬼にとって最も害悪な稀血。アイツは生まれてこねぇ方が良かったなぁ!どちらにしても殺される運命なんだ、ははははっ!」
古からずっとずっとずっと…
陰陽師である神楽家に生まれる女児は
鬼にとって
無惨にとって
害悪な存在
いつだって殺されてきた
それが神楽家の女児に生まれた運命と言われるのも無理はないほどに。