第37章 貴方は陽だまり
項垂れたまま動かなくなった炭治郎を見て、妓夫太郎は肩を震わせた。
しかし、先に笑ったのは後ろの屋根にいた堕姫の方だった。
「ふっ…」
「ひひひっ!そうかそうか。土壇場で心が折れたか。みっともねぇ!本当にみっともねぇ!」
炭治郎が手の中に隠したものの存在にまだ気づいていない様子の妓夫太郎達に炭治郎は粛々と機会を窺う。
「みっともねぇが俺は嫌いじゃねぇ。俺は惨めでみっともなくて醜いものが好きだからなぁ。お前の額の傷!いいなぁ、愛着が湧くなぁ。」
あれほどまでに宇髄に嫌悪感を抱いていたのはそう言うことだ。
外見や内面で秀でてチヤホヤされる人間が妓夫太郎は何より疎ましいのだ。
人間誰しもどんな容姿をしていたとしても、大なり小なり気になることはある。
それによって負った心の傷は不憫だとは思うが、だからといっていたずらに人を傷つけていいわけではない。
「そうだ!お前も鬼になればいい!妹のため花も!!そうだそうだ!それがいい!鬼になったら助けてやるよ!仲間だからなぁ!」
上弦の鬼と言うのは気にいると鬼に勧誘するのが通例なのか。
煉獄もまたそうであったように今度は炭治郎を誘う上弦の陸の妓夫太郎。
「そうじゃなきゃ妹もぶち殺すぞ。他人の妹なんか心底どうでもいいからなぁ。」
「やだ!やめてよ!お兄ちゃんなら!アタシ絶対嫌だかんね!」
しかし、兄妹で意見が合うとは限らない。
堕姫が後ろから抗議を示すが妓夫太郎はどこ吹く風。どうやら炭治郎を気に入ったらしい。
「鬼になれば一瞬で強くなれるぜ。不自由な体とはおさらばだ。なぁなぁ、どうする?」
すると妓夫太郎の脳裏にあることが思い出された。それは一年ほど前の記憶。それは此処にはいない人物の縁の場所。
「…そういやぁ、あの女の父親も鬼にしてやったらよぉ、制御できずに死んだ自分の息子食ってやがったなぁあ!!自分の息子も分からねぇ!みっともねぇったらねぇなぁ!」
炭治郎はその言葉にピクリと反応を見せると、顔を少し上げて妓夫太郎を見た。
それは恐らくほの花の里のこと。
ほの花の家族のことだと気づいたからだ。