第37章 貴方は陽だまり
「みっともねぇなぁ、みっともねぇなぁ。お前は本当にみっともねぇなぁ。特にお前は格別だ。」
妓夫太郎の目線は炭治郎の後ろにあった。
そこには禰󠄀豆子が入った箱。
衝撃から少し頭が見えてしまっている。
「お前の背負ってる箱からはみ出ているのはお前の血縁だな?わかるぜ、鬼になってても血が近いのは。そりゃあ姉か?妹か?」
炭治郎は妓夫太郎に違和感を感じた。
最早自分を殺せば終わりの筈だ。
なのに何故殺さない?
まるで虫ケラを痛ぶるような悪趣味のようにも感じるが、炭治郎は質問に答えることにした。
「…妹だ。」
「ひひひっ!そうか、そうかぁあ!!やっぱりなぁ。お前全然守れてねぇじゃねぇか!!」
「!!……」
何も言い返すことができない炭治郎は息を飲み、奥歯を噛み締めた。
「まぁ、仕方ねぇよなぁ?妹は鬼でお前は人間。鬼の妹より弱いのは仕方ねぇけど、それにしてもみっともねぇ!!」
妓夫太郎は示そうとしてるのだろうか。
兄とはどんなものか。
自分が妹の堕姫を守ったように。
炭治郎の前に屈むと、指を引っ掴んだ。
「兄貴だったら妹に守られてねぇで、守ってやれよなぁ?この手で。ひひっ!」
妓夫太郎がそのまま掴んだ指を反対側に折り曲げてやるとボキッという嫌な音を立てて炭治郎の指の骨が粉砕した。
痛みで声も出ない炭治郎に今度は頭をべしべしと叩き始めた。
「なぁ、今どんな気持ちだ?一人みっともなく生き残ってよ。頼みの綱の妹は力を使い果たしてるぜ。」
頭を掴むとそのままグイグイと揺らしてニヤニヤと怪しい笑いを浮かべてどんどん精神的に追い詰めていく妓夫太郎に目を瞑って耐えるしかない炭治郎。
虫ケラ、ぼんくら、のろまの腑抜け、役立たず
全ての言葉が炭治郎に突き刺さっていく。
「弱い弱いボロボロの人間の体で俺の頚を斬ってみろ。さぁさぁさぁさぁ!」
何が目的なのか分からない。
ただ楽しんでいるようにしか見えない。
みっともなく死にゆく人間を鬼の付加価値をひけらかして優位に立っていたいだけ。
だけど、炭治郎は諦めたわけではない。
項垂れるフリをして落ちてた巾着袋を手の中に収めたのだ。
それは雛鶴を助けた時にこっそりと渡されたものだった。