第37章 貴方は陽だまり
(みんなごめん…。禰󠄀豆子ごめん。)
薄れゆく意識の中で炭治郎は昔の夢を見ていた。
目の前には鬼になる前の人間の禰󠄀豆子が辛辣な顔をしていた。
「謝らないで。何でいつも謝るの?」
夢の中の禰󠄀豆子は炭治郎にそう問う。
人間とは何もかもはうまくはいかない。
頑張ってもどうしようもならないこともある。
貧乏であっても、金持ちであっても…
そこで幸せかどうか決めるのは本人次第。
すぐに自分を責めてしまうのは炭治郎の長男故の責任感の強さの賜物だが、禰󠄀豆子からしたらそんなふうに思って欲しくなかった。
謝ってほしくなかったのだ。
「幸せかどうかは私が決める。大切なのは"今"なんだよ。前を向こう。一緒に頑張ろうよ。戦おう。謝ったりしないで。お兄ちゃんなら私の気持ちわかってよ。」
泣きながら炭治郎を見つめていた既に鬼の姿の禰󠄀豆子だった。
その瞬間、ハッとして目を開けた炭治郎はあたりを見渡した。
(…昔の夢?!あれ?ここは?!)
運良く瓦礫が下敷きになって助かったようだが、運が良いのか悪いのかはもうわからなかった。
「何だ、お前まだ生きてんのか。運のいい奴だなぁあ?」
「……‼︎」
目の前にいたのが妓夫太郎だったから。
その瞬間、もちろん背筋が凍りついた。
ビリビリと喉の奥が震えて声も出せなかった。
「まぁ、運がいい以外取り柄がねぇんだろうなぁ。可哀想になぁ。お前以外の奴はもうみんな駄目だろうしなぁあ。」
妓夫太郎は最早勝利を確信しているため、やけに饒舌だ。
この状況で奇跡が起こらない限り、何をしても無駄なこと。
既に堕姫も自分も傷という傷は回復しているが、炭治郎は深傷を負っていて殺すことなど赤子の手を捻るようなもの。
「猪は心臓を一突き、黄色頭は瓦礫に押し潰されて苦しんでるから死ぬまで放置するぜ。虫みたいにモゾモゾしててみっともねぇよなぁ。柱も弱かったなぁ。威勢がいいだけで毒にやられて心臓が止まって死んじまった。お陀仏だ。」
現状をご丁寧に教えてくれる妓夫太郎に虫唾が走るが、炭治郎は唇をかみしめて耐えていた。
夢の中の禰󠄀豆子が言っていた。
"前を向こう。一緒に頑張ろう"って。
自分が生きてる限り、最期まで戦う覚悟だった。