第37章 貴方は陽だまり
(伊之助…!暗くてよく見えない!心臓を刺されたのか?!クソッ!クソッ‼︎何でアイツがこっちに…?宇髄さんは…?!)
炭治郎は目の前の状況を受け止められずにいた。
いるはずの無い妓夫太郎がその場にいる。
宇髄はどこに…?そう思い、先ほどまで繰り広げられていた戦いの場に視線を落とせば、その光景に体が震えた。
力なく横たわるのは宇髄。
腕を切断されてピクリとも動かないその姿に絶望感に襲われた。
(…そんな…!そんな……‼︎)
宇髄は柱だ。柱である宇髄がやられてしまった。
伊之助も。
残ったのは自分と善逸のみ。
どうする?どうすればいい?
僅か数秒で考えがぐるぐると回っていた。
「炭治郎‼︎危ない!!」
しかし、戦いの場において気を抜くのは死を意味する。
善逸の声でハッとしたが、目の前には妓夫太郎と堕姫の攻撃が迫っていた。
善逸のおかげで直撃は免れたが、屋根から瓦礫と共に落ちていく炭治郎は意識が飛んだ。
***
「宇髄さん!」
……誰だ?
「宇髄さんのお嫁さんになりたい。」
……?嫁?何のことだ?俺には嫁は既に三人……
目の前に浮かび上がったのは見慣れない紺色の浴衣を身につけた女。
後ろを向いていて表情は窺い知れない。
しかし、その髪は誰かを彷彿とさせる栗色。
「花火綺麗だったね!お祭り楽しかった…!」
花火?
ああ、花火大会…か。夏にあった毎年恒例の。
そうだ。今年も行った…気がする。
お前と…行ったのか?
お前は誰だ?
「天元、ありがとう。」
何の礼だよ、そりゃ。
「愛してくれて、ありがとう。」
…愛して…?お前を…?
「大好きだよ、ずっと…」
何だよ、その別れの挨拶みたいな台詞は。
ずっと一定の距離間でしかその女を見ることはできなかった。
でも、一歩、また一歩と踏み出してみれば今日はその女に近付くことができる。
手を伸ばせば届きそうな距離にきた。
呉服屋の女将が言っていた。
花火大会に一緒に行ったのは嫁三人ではなく、ほの花だと。
だけど、棚の中に隠すように入れてあった浴衣をほの花は知らないと言う。
目の前の女のその浴衣もまた"俺"は見たことはない。
本当に?
知らないんじゃない。
忘れてるだけだろ?
確信に近いものがあった。
目の前の女の正体を。