第37章 貴方は陽だまり
「今度は決めるぜ‼︎陸の牙!!」
もう一歩、踏み出す伊之助は更に技を繰り出して追い詰めていく。
それは鋸のようにギコギコと徐々に斬っていくという荒業。
だが、もう逃げられない。
後ろには炭治郎と善逸がすぐそこまで来ているのだ。
──乱杭咬み‼︎
その瞬間、宙を舞ったのは堕姫の頚。
「……!!」
驚いた顔をして見る先にいるのは柱でもないただの下っ端剣士。
堕姫は信じられないと言った表情でそれを見つめるしかない。
「…やった!伊之助!!」
炭治郎が喜びを露わにするが、伊之助はその頚をガシッと掴むと考え付かなかったことを言い出した。
「頚!頚!くっつけられないように持って遠くへ逃げるぞ‼︎」
それは伊之助らしい柔軟な発想だった。
確かに宇髄が妓夫太郎の頚を斬るまで、堕姫の頚は死守しなければならないのだから作戦としては得策だ。
「ぬおおおおおおっ!!」
伊之助は脱兎の如く屋根の上を猛烈な速度で走っていく。
「とりあえず俺は頚を持って逃げ回るからお前らはオッサンに加勢しろ‼︎」
「分かった!気をつけろ、伊之助‼︎」
「おうよ!」
この作戦がうまくいけば、二人の体は消滅する。
何とかその時まで逃げ回らねばならない。
「糞猪‼︎離しなさいよ‼︎」
堕姫は伊之助に頚を持たれながらも髪を操り何とか攻撃しようとするが、髪くらい造作もないこと。
伊之助は難なくその髪を切り落とすと意気揚々に高らかに笑った。
「グワハハハ‼︎攻撃にキレがねぇぜ!」
「何ですって?!」
「死なねぇとは言え、急所の頚を斬られてちゃぁ弱体化するようだな‼︎グワハハハ‼︎」
ダダダダと脇見も振らずに走っていく伊之助に隙があったかどうかと言われれば鬼の頚を斬ったことで若干の隙はあったかもしれない。
だが、そんなことよりも音もなく忍び寄る其れに気付くことは至難の業だ。
──ドスッ
鈍い音が響き渡ると伊之助の足が止まる。
ゆっくりと傾いていくその体を見て炭治郎が大声で叫んだ。
「伊之助ーーーーッ!!!」
そこにいたのは妓夫太郎。
妹の頚を持って逃げ回ろうとしている伊之助を容赦なく後ろから鎌を貫通させたのだ。
伊之助の手から堕姫の頚を取り上げると舌舐めずをする妓夫太郎を伊之助は薄れゆく意識で見た。