第37章 貴方は陽だまり
止められていた呼吸ができるようになったことでゴホッと咳をするほの花をチラッと気にする宇髄だが、目の前の妓夫太郎への攻撃で介抱してやれる時間はない。
「…邪魔すんなよなぁあ?そいつもお前の継子なんだろ?たかが弟子一人死んだって大したことねぇじゃねぇかよ。どっちみちお前もこれから死ぬんだからよぉ。俺の毒でなぁ?」
ほの花は妓夫太郎の言葉に目を見開き、宇髄を見た。怪我は見れば分かる。まさか毒を食らっていたなんて思いもしなかった。
血鬼術による毒の解毒剤なんて症状をちゃんと見てからじゃないと作れない。
「ほの花には…もう、指一本触れさせねぇ…。」
それなのに宇髄の口から出るのはほの花を大切な存在だと言わんばかりの言葉。
その背中はほの花が大好きな背中。
いつもこの背中を見てきた。
宇髄のように強くなれなくても、いつかこの背後を守るのだと思ってきた。
だが、蓋を開けてみればどうだ?
結局は宇髄に助けられて救われている。
ほの花の記憶はないのにも関わらず、それは変わらない。
今できることは何なのかほの花は呼吸が落ち着かないままに宇髄の背中に手を翳す。
(…1…2…3…4…5…6…7…8…9…10…)
此処に自分がいることは宇髄の邪魔になると悟ったほの花は彼の背中に出来る限りの治癒力を使うと徐に立ち上がった。
そして宇髄にだけ聴こえる声で話しかけた。
「…天元、助けてくれてありがとう。勝ってね。」
それは炭治郎が反対方向から妓夫太郎を斬りつけたのとほぼ同時。
宇髄は目を見開き、その言葉を飲み込もうとしたが考える余裕もなく現実に引き戻される。
その隙にほの花は雛鶴の元に行き、彼女の手を引いて「私たちは身を隠しますのでご安心を!」と言ってその場から立ち去った。
その場に取り残された宇髄の体は何故か少しだけ軽くなっていて、その状態にも驚きを隠せないが、それよりも驚いたのはほの花が自分を「天元」と呼んだこと。
そしてそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかったということ。