第37章 貴方は陽だまり
(…できた…!!)
ヒューヒューという苦しい呼吸の音が響き渡るほどしん、と静まり返ったそこ。
炭治郎はゲホッゴホッと咳をしながらもその後ろに庇っているのは雛鶴。
視界に入っていない上、警戒もされていなかったことで、炭治郎は咄嗟にヒノカミ神楽と水の呼吸を織り交ぜて使ったのだ。
そうすることで水の呼吸よりも威力は上がり、ヒノカミ神楽よりも長く動ける。
体は限界をとうに超えていたが、ほの花が首を掻っ切ってしまいそうだったので慌てて動いたのだ。
炭治郎自身はほの花の血のことは分かっていない。だけど、捨て身で雛鶴を助けようとしたことだけは分かる。
そして、それが自分達の助けにもなったであろうことも。
だとしても…ほの花が傷つくことは望んでいない。
此処にいる誰より…宇髄が。
咄嗟にそれを汲み取った炭治郎は雛鶴を助ければほの花は思い留まると思ったのだ。
「ゲホッゴホッ…!!」
「…炭治郎…っ!」
ほの花が炭治郎に近寄ろうにも目の前には妓夫太郎。
炭治郎の傷の具合は気になるが、いま此処で首を掻っ切ればこの鬼を倒せるかもしれない。
ただどれ程の威力なのか自分でも不確かな分、半信半疑でもある。
その一瞬の気の迷いが妓夫太郎に付け入る隙を与えた。
ほの花が首に付けていた舞扇を瞬間的に弾き落とすと首を掴み上げた。
「ッッ…!!」
「お前だけは必ず今殺してやるよぉ…。血を出させなきゃいいんだろぉお?簡単なこった。安心しろ。こんな首の骨を折ってすぐにあの世に送ってやる」
ほの花の目に涙が溜まった。
ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのこと。
自分の不甲斐なさ、情けなさに嫌気が差したから?
何もできなかったことへの悔しさから?
どれも違った。
妓夫太郎越しに見えた人物と目が合ったからだ。
「竈門炭治郎!!お前に感謝する!!」
自分に気を取られている妓夫太郎に宇髄が後ろから日輪刀を振り落としていたから。
その目に宿る炎は怒り。
しかし、寸前のところで妓夫太郎はほの花の首から手を離し、鎌でそれを受け止めてしまった。
何処までも人間を嘲笑うようなその強さ。
それこそが上弦の鬼。