第37章 貴方は陽だまり
命を懸けるなんて簡単に言うけど私なんてかけたとしても大したことない。逆に足手纏いになる。
でも、自分の血は違う。
血だけは嘘をつかないとこの戦闘で潔く理解した。
"あの方"というのは鬼舞辻無惨。
その男が私を殺せと言っている。
要するに私が彼にとって目障りで害悪だから。
雛鶴さんを一人で行かせたのは二人だと身動きが取りにくいから。
いざと言う時に助けに行けるように陰で隠れていた。
私も雛鶴さんもどちらも上弦の鬼との戦闘においては大して役に立たないだろう。
藤の毒が塗ってあるクナイと言うのがどれほど効くのか不確かな分、その後のことを考えたら一人は隠れている方がいいに決まっている。
万が一、宇髄さんに守られたとしても二人より一人のが守るのは楽だ。
そうでなかったとしても鬼の風貌が変わっているのを見ると、堕姫と言う鬼の他にもう一体いて、どう考えても空気感からこっちの鬼のが本命だとすぐに分かる。
余計、油断させて後から出た方がいい。
そしてそれは当たっていた。
宇髄さんも炭治郎もかなりの手負い。
二人の怪我の状態は上から見ただけではちゃんとは診断できない。
雛鶴さんが捕まってしまった瞬間に四神を召喚すると四方に配置されたそれを見て動きが止まる鬼の前に私は姿を見せた。
案の定、私の姿を見て驚いたような顔をするその鬼は堕姫と情報共有が出来ているのだろう。
自分の首に舞扇を突きつけたまま歩みを進めれば狼狽えたように少し後退りをした。
自分の血が鬼にとって害悪なのも理解しているのだろう。
神楽家の女にだけ授かる血の力は二つ。
一つは人間の治癒を高める能力
もう一つは鬼を消滅する能力。
その昔、鬼舞辻無惨の側近の鬼すら首が吹っ飛んだと言うその威力。
その記憶は鬼舞辻の中で深く色濃く残っているのだろう。
その時の記憶が目の前の鬼が後退りをする唯一の理由だ。
鬼舞辻無惨を倒すほどの致死力はないだろう。
それでも上弦の鬼であれば、通用するに違いない。
どれくらいの量が必要か分からない。
いざとなれば首を掻っ切ってでも目の前の鬼を殲滅するつもりだった。
でも、それを止めたのは見たことのある市松模様の羽織を着た同期だった。