第37章 貴方は陽だまり
ほの花の里を皆殺しにした鬼が…コイツらだと?
怒りで手が震えるのを我慢できない。
ふぅー、ふぅー…と息を吐く度に怒りが溢れてくるようだ。
忘れちまった記憶の中にほの花の昔のことも含まれていたのだろう。
俺はほの花の里のことはほぼわからない。
全滅させられたと言うことだけ知っている。
手に掛けたのが目の前の鬼畜生。
陰陽師の生き残りと言うのも微かに記憶があるし、それであの幻獣を出しているのは分かる。
妓夫太郎の周り四方に配置され、いつでも攻撃できる体勢で唸りを上げている。
果たしてその陰陽道が何処まで通じるのかは分からないがほの花自身はそれであの鬼と渡り合おうなんざ思っていないようだ。
あれはただのまやかし。
先ほどからジリジリと詰め寄っているのはほの花なのに、ほの花の得物。日輪刀がついた舞扇を自らの首に付けているのは何故だ。
そして、妓夫太郎はその様子に少しだけたじろいでいるようにも見える。
「師匠の大切な人なぁあ?お前が陰陽師の…あの一族の娘だと言う証明できんのかよぉぉ?」
「母は異国出身。この髪色は母譲り。あなたの記憶にある母も同じ色だったでしょう?他ではあまり見ないはずよ。そしてこの首飾りは神楽家の証。」
確かにほの花の髪色はとても珍しい色をしていてこの辺では見かけない綺麗な栗色。
色素の薄い髪と真っ白な肌は異人を思わせる風貌だ。
それがどう関係しているのか俺には分からない。ただ唯一わかるのはほの花は妓夫太郎達にとって害悪な存在だと言うこと。
それをほの花も知っていて、アイツらも知っている。だからこの会話が成立しているのだ。
「…お前だけは必ず今日殺しておかねぇといけねぇからなぁあ?」
「ええ、それならば…雛鶴さんを離して。」
ほの花は本気だ。
本気で雛鶴を渡さなければ自らの喉元を掻っ切るつもりなのだ。それほどまでに決意に満ちた表情をしている。
駄目だ。
やめろ。
お前が死んだら意味がない。
その時だった。
膠着状態だった二人の前に飛び出て雛鶴を救出した人物は完全に妓夫太郎の視界に入っていなかった竈門炭治郎だった。