第37章 貴方は陽だまり

藤の花の毒で若干の隙が出来たところで宇髄と炭治郎は示し合わせたかのように息ぴったりに頚を斬りにかかった。


──メギィ


しかし、妓夫太郎がニヤリと笑うと嫌な音を立てて足が再生し…ドンっ！と地面に降り立つ。
この数秒間でもう毒を分解してしまったのだ。
その速さに誰もが驚愕するしかない。


「いやぁ、よく効いたぜぇ…。この毒はなぁ？」


これが上弦の鬼。
上弦の陸　妓夫太郎。


──血鬼術　円斬旋回　飛び血鎌


先ほどまでとは打って変わり、腕の振りもなしに広範囲に斬撃を繰り出す血鬼術に危うく炭治郎が巻き込まれそうになった。


寸前のところで宇髄が炭治郎を蹴り上げて軌道を外すが、その威力は凄まじい。


──音の呼吸　肆ノ型　残響無間‼︎



なんとか呼吸で応戦するが、攻撃の爆風が消え去ったそこには…



誰もいなかった。



(…消えた？！)



その瞬間、宇髄は嫌な予感が身体中を迸った。
屋根の上から妓夫太郎に向けてクナイを放った雛鶴を見上げると彼女の名を呼ぶ。


「雛鶴っ！」


「天元様！私に構わず鬼を探してくださ…！！」



嫌な予感というのはあたるものだ。
雛鶴の横にいつの間にか姿を現した妓夫太郎は彼女の口を塞ぎ血走った目で睨みつける。



「よくもやってくれたなぁあ？俺はお前に構うからなぁ？」


「……‼︎」


「雛鶴ーーーーーー！！」





── もし、…上弦の鬼を倒したら、天元様も柱は引退してみんなでゆっくり暮らしましょう。その時、誰一人として欠けていないことを祈ってますけど、もし、欠けていたとしても恨みっこなしです。


それはいつだったか雛鶴がみんなで行った墓参り…。
…みんな？
いつもあそこに行くのは嫁三人と宇髄のはず。

いつ言った？
いつの記憶だ？！

誰も欠けない…！
欠かせない。


宇髄の頭の中は大量の情報を処理するのに沸騰寸前だ。
目の前で人が殺される。
しかも、自分の家族。


「やめろーーーーー！！！」


宇髄の叫び声がその場で響き渡る。
ただし、大事なことをわすれている。
宇髄にはもう一人信頼できる人物がいたことを。

彼女は決して人を見捨てたりしない。
裏切ったりしない。

愛している人のためならば。