第37章 貴方は陽だまり
(なんだ、クナイか…)
妓夫太郎の心の第一声はたったそれだけ。
柱である宇髄を相手にしながらそのクナイを一つ一つ捌くのは面倒極まりない。
炭治郎達三人もいるわけだし、わざわざ避けるのに体力を使わずとも当たっても大したことはない。
鬼なのだからすぐに回復できるのだ。
しかし、直前で気づいたのはこの攻撃の意味。
見たところ雛鶴は単独で乗り込んできていてこの場にいる誰よりも弱い。
無謀な攻撃をするために此処に来た意味は?
このクナイに何らかの秘密があるからだ。
──血鬼術 跋弧跳梁
妓夫太郎は斬撃で天蓋を作り、そのクナイを弾き返すと今度は突っ込んできた宇髄に驚きを隠せない。
(オイオイ、なんだよ…!コイツは…!)
雛鶴が撃ったそのクナイを体に突き刺さっているのに少しも気にせずに攻撃を仕掛けてきたから。
(そうか…忍だ…剣士じゃない。元々感覚が真面じゃない)
鬼であっても宇髄の感覚は目を見張るほどのもの。それほどまでに厳しい訓練を受けてきた。
命をかけることくらい当たり前。
死ぬことなんて怖くない。
忍とはそう言うものだ。
雛鶴とてそうだ。
特にくのいちなんて命をかけることが最低限の努力とされる生業。
妓夫太郎に向かっていった宇髄は姿勢を低くして、足を切断してやる。
その瞬間、首筋にドスっと刺さった一本のクナイに妓夫太郎はあることに気付く。
(…足が再生しない?)
そう。そのクナイは藤の花から抽出した毒を塗ってある。体が痺れ始めた時、目の前に現れた炭治郎に妓夫太郎は尚も怪しい笑みをした。
(やるじゃねぇかよぉ…短時間で統制が取れ始めた…。面白ぇなぁあ!!)
雛鶴が使った毒は数字を持たない鬼であれば半日体を麻痺させられる。下弦の鬼ですら動きを封じることができたのだ。
(…お願い!効いて!ほんの僅かな間でいいの!そうしたら誰かがきっと頚を斬れる!!)
雛鶴はそう信じていた。
上弦の鬼とて、少しでも動きを封じることができたらきっと頚を斬れるのだと。
しかし、上弦の鬼とはそう甘くはない。
だからこそ顔ぶれがずっと変わらないのだ。
それが上弦たる所以だ。