第37章 貴方は陽だまり
「…ほの花さん、教えてください。ほの花さんは…知っているんじゃないですか?」
雛鶴は確信にも近い感情を持っていた。
ほの花は全てを知っている。
この違和感の正体を知っていると。
ほの花はゆっくりと目を開けて、雛鶴を真っ直ぐに見た。
「…雛鶴さん…。この戦いが終わって、全員が生き残っていたらまた一緒に桜を見に行きましょう?」
「…桜…?」
それは宇髄にも言った言葉。
宇髄よりも雛鶴達は薬の量が少ない。
引き金さえ見つかれば其処から記憶が噴出する可能性があった。
それならそれでほの花はもう構わないと思っていた。
いずれにせよ、戦いが終われば宇髄に全てを打ち明けるつもりだったのだから。
「…"今"は。それしか言えません。でも…この戦いが終わったら…師匠にも…雛鶴さん達にも本当のことをお伝えします。」
「…本当の、こと…。」
「はい。なのでみんなで生き残って桜を見に行きましょう。」
あの日見た桜は本当に美しくて、桜吹雪が牡丹雪のように見えた。
でも、雪とは違い、それは春のほんの少しの期間しか咲かず、暖かくて儚い存在。
雪のように手のひらに舞い落ちれば消えることはない。
美しい薄紅色の花びらはいつだったか宇髄がくれた膝掛けのような色合いだった。
「ほの花さん…もし、生き残ったらお願いがあるんです。」
「?何でしょう?」
突然、そんな風に改まって聞いてくる雛鶴にほの花は首を傾げた。
「私とも…いえ、私たちとも瑠璃さんとのようにもっと仲良く、お話したりしたいです。」
「え?」
「あの日…瑠璃さんが泊まりに来た日。屈託なく笑うほの花さんを見て、瑠璃さんが羨ましかったです。…私のが仲良くしていたと思っていたのに…って。」
頬を少しだけ染めて恥ずかしそうにそう言う雛鶴にほの花は鼻の奥がツンとした。
自分が遠慮していたことがどれほど無意味なことなのかが露呈したのだから。
"戻りたい"なんて誰も思っていなかった。
ほの花が気にしていたことなんて雛鶴達は少しも気にしていなかった。
その瞬間、もっと早く彼女達と話していれば今とは違った未来があったのかもと思わざるを得なかった。