第37章 貴方は陽だまり
「…雛、鶴さん…。」
「ずっと、おかしいと思って生活していました。天元様のことは変わらず大切な存在なのに…お互いに感情が向き合わないような日々でした。」
雛鶴も…いや、恐らくまきをも須磨も。
三人は同じように違和感を感じながら生活していたのだろう。
既に夫婦関係を解消して何ヶ月も経っているのにいきなり薬で忘れさせられて元通りというのは気持ちがついていかない。
たとえ、忘れ薬を飲まされていたとしても。
誰しもが体に自分の感情が染みついてしまっていることだろう。
「…天元様のことは大切なのに"愛している"かと聞かれれば…即答できない自分が本当に情けなくて恥ずかしかった。…でも、自分だけでなくまきをも、須磨も…同じ感情を持っていたことに気づいたんです。」
雛鶴と向き合っているほの花は居た堪れなくて目線を外してしまう。
それはもう肯定をしているようなものだ。
自分が"何かをした"ということを。
だが、ほの花に今、それを否定するだけの言い訳は持ち合わせていない。
いや、随分前からもうバレるのは時間の問題だったのだろう。
本人が此処まで気づいているのであれば。
「…天元様に何度も聞かれました。"ほの花は俺の継子だよな?"って。その度に私たちは肯定することしかできませんでした。でも…ずっと…それも違和感しかなかったです。」
「………」
「ほの花さんはただの"継子"。ほの花さんはそれらしく振る舞ってくれているのに、天元様はあなたに熱を帯びた視線を向けていました。そして、私たちもそれを容認するような感情しかなかったんです。」
次々と出てくる雛鶴の言葉にほの花は目を閉じて聴き入った。
宇髄が何度もそんなことを聞いていたなんてほの花は知らなかったこと。
忘れ薬を飲ませたと言うことが逆に彼らに余計な感情で振り回してしまったのは明白。
そのことがほの花は恥ずかしくてたまらなかった。
回り道をした。
結局は蛇足だった。
それでも今はそれを答えるわけにはいかない。
今は…今だけは…"継子"として最後まで師匠の大切な者を守りたいから。