第37章 貴方は陽だまり
遊郭と言うのは遊女が着飾るために多くの着物がある。
その中で楼主の妻の反物を探すなど不可能ではないかと思ったが、意外にもすぐに見つかったのはその反物に血が付着していたからだろう。
血痕は黒く変色してしまい、それが何日も経っていることを表していた。
ほの花はそれを引っ掴むと急ぎ楼主の元へ走っていく。
刻一刻と終わりの時は近づいている。
「…っ!旦那さん!!ありました…!」
「……お、みつ…」
ほの花が戻った時、楼主はもう虫の息。
里が襲われた際に最期を看取った自分の母のように。
途端にこみ上げるものがあった。
人の命が散りゆく瞬間にまた立ち会わなければいけないと察知したから。
持ってきたそれを楼主に渡せば震える手でそれを握りしめて、ふわりと笑った。
その姿にほの花は目を見開いた。
潜入調査をし始めてからの楼主しか見たことないが、その時の彼はいつもピリピリとしていてこんな風に穏やかな顔をしたことがなかったから。
「…だ、旦那、さん…。」
「お、お三津…、すまな、かった…。すまなか、ったなぁ…。」
「……ひっ、く…」
泣いたってどうしようもない。
でも、自分の妻を抱きしめるようにその反物を掻き抱く楼主の姿が切なく、美しく、儚くて涙が止まらなかった。
楼主が横たわっている場所は血溜まりができていて、ほの花がそこに座り込むと彼の血が跳ねてピチャと音がした。
「旦那、さん…。」
「…ほの花…、ありがとう…あり、がとう…あ、ありが…とう…。」
「…とんでも、ありません…!」
「…あの、男は…仇をとって、くれる、だろうか?」
「もちろん…!もちろんです!!」
「そう、か…。よろしく、伝えてくれ…あ、あ、ありがとう…と。」
楼主はそのまま譫言のようにずっと「ありがとう」と言い続けた。
事切れるその時まで。
ほの花はその瞬間を涙を流しながら見届けた。
それが自分ができる弔いだと感じたから。
(大丈夫です。旦那さん…。あなたと奥様の仇は必ず…必ず…宇髄さんが取ってくれる…!)
ほの花は強い意志を持って楼主の最期を看取った。
その強い意志は宇髄への信頼そのもの。