第37章 貴方は陽だまり
ほの花が目を凝らした先にいたのは瓦礫の下に埋まった人の姿。
そこから手だけがこちらに向けて伸びていた。
「…っ!!今行きます!!」
大きな瓦礫だが、このくらいであれば宇髄の地獄の特訓を耐えたほの花からすれば軽いもの。通常の女子とは思えないほどの力でそれを退かすと其処にいた人物に目を見開く。
「…、だ、旦那さん!!」
それはほの花が働いていた"京極屋"の楼主だったのだから。
血まみれの体と足は変な方向に折れ曲がってしまっていて、少なくとも骨折と脱臼は間違いない。
何処からの出血なのか。
体中が血に濡れていて出血点がわからない。
「…お、おまえ…ほの花、か?」
「旦那さん…!そう、そうです!ほの花です!お気を確かに…!すぐ手当てをします!」
出血点はわからないが、着物の袖丈部分を破ると体に押さえつけて止血を行う。
「…ほの花…無事で…、よかった…。」
「…旦那さん…!喋らないで下さい!応急処置をしますので…!」
破った袖丈はすぐに血にまみれていくため、どんどん追加して楼主の体に押し当てるが、この出血量は傷口がたくさんあるのだろう。
全ての傷を塞ぐためにはある程度、能力を使わなければ助けられない。
ほの花は手を翳して目を閉じようとした時、楼主が再び声をあげた。
「…ほの花…、た、建物の中に…お三津の…、反物がないか…?」
「え?お、お、三津、さん?」
「亡くなった…俺の女房だ。最期に着ていた反物から手を離してしまってな…、その辺に、ないか?」
「さ、先に手当てを…!!」
反物は後で探すとして、今は応急処置のが重要だ。ほの花は再び手を翳そうとしたが、またもやそれを阻んだのは楼主の声だった。
「…俺は…もう、いい。お三津に、謝りたい…。最期にお三津の反物に看取られて逝きたいんだ…。ほの花、頼む…。どのみち…もう俺は助からん。そうだろ…?」
楼主の言っていることが正しい。
ほの花は今、世の理を逆らう能力を使おうとしていた。
しかし、それを使えば間違いなく助かるのだ。
それなのに目の前にいる人はそれを拒んでいる。
その状況に一番困惑していたのはほの花だった。