第36章 命の順序
ほの花に声を掛けたのは清楚な佇まいの女性。
しかも、人を探しているのだろうか?
知らない名前を口に出してほの花に問うている。
「"秋元"という方は存じ上げません。お探しならばお手伝いしましょう。」
「え…?先ほど…!つい先ほど、其処にいらしたではありませんか…!!見たことない格好でしたが…声は秋元様でした…!」
つい先ほどまで其処にいたのは宇髄に伊之助、善逸だ。
その中で偽名を使っていたのならば伊之助は"猪子"、善逸は"善子"どちらも"秋元"などという名前ではない。
見間違いではないかと思ったが、彼女は"声"が"秋元"だと言い切った。
その中で"秋元"という偽名を使うであろう人物は宇髄しかいない。
しかし、いつ何処で…?その偽名を使う必要があるのだろうか?
ほの花は必死に考えを巡らせるが、まだ鬼との戦闘での高揚感から考えが纏まらない。
「…"秋元"さんの特徴は?」
「とても…素敵な方でした。前にお店に来てくださっていた方で…上背があって、逞ましい体つきをしていて…顔はとても男前でいらっしゃいました。先ほど…其処にいらっしゃいませんでしたか?」
それを聞いてほの花は目を見開いた。
忘れていたことがあった。
ほの花が潜入するもっと前に、此処に潜入調査をしていた人がいる。
(…宇髄さんだ。)
たったそれだけを聞いただけなのに彼女が言っているのが宇髄のことだと悟るほの花。
「…あ、え、ええ…。いました。何か伝言をお伝えしましょうか?」
「やっぱり…!あなたが……秋元様の部下の方なのでしょう?」
「え…?……あ、と…そう、ですけど…何故それを?」
目の前にいる人が宇髄さんが潜入調査をした時に接客した遊女だと言うことだけは分かる。
本来ならば嫉妬で頭がおかしくなりそうなところだが、宇髄が教えてくれたことが本当ならば目の前の女性とは体の関係はなかったのだろう。
それよりも何故この女性はほの花のことを部下だということを言い当てたのだろうか。
不思議でたまらないほの花は女性の目を見つめて首をかしげた。