第36章 命の順序
ガシッ、と掴まれたかと思ったら宙を浮いた自分の体に炭治郎は目を瞬かせる。
思い切り投げ飛ばされたことで部屋を飛び越えていたが、見下ろせばそこには妓夫太郎と刃を交える宇髄の姿だった。
(守るって…?!何をしてるんだ。逆に庇われて足を引っ張っている…!)
酷く情けない炭治郎だったが、心臓の音が鳴り止まない。
浅い息を繰り返していると今度は恐ろしいほどの悪寒に襲われた。
──ゾクリ
咄嗟に見上げた天井からは無数の帯が突き破ってきて、宇髄と妓夫太郎の戦いをも飲み込む勢いだ。
その時、堕姫の姿に変化が訪れていた。
「アハハハッ!!全部見えるわ!アンタたちの動き!!兄さんが起きたからね!これがアタシの本当の力なのよ!!」
その額にはぱっくりと割れて新たな瞳が現れている。
全て見えるとはその瞳で視界を共有しているということだろうか。
更に上がった闘気に身震いをするが、引くわけにいかない。
「うるせぇ!キンキン声で喋るんじゃねぇ!!」
堕姫の元に到着していた伊之助が苦言を呈するが、完全体になったことで酔いしれている堕姫は冷たい視線で見下ろしている。
「クククッ"継子"って言うのは嘘だなぁ?お前らの動きは全然統制が取れていない。全然駄目だなぁ。」
それは間違いない。
宇髄の継子はほの花。
ほの花とならば息ぴったりで動ける自信が宇髄にはあるが、呼吸を使えないほの花が上弦の鬼との戦いに身を置くのは自殺行為だ。
統制が取れていなくとも戦い抜くしかないのだ。
✳︎✳︎✳︎
ほの花は宇髄に言われた通り、一般人を避難させるため帯から出た人たちを抱えようとしていた。
肋骨が軋んだとしても女性二人くらいならば軽々と担ぐくらいの力は鍛錬でつけてきた。
こんな時のための筋力鍛錬だ。
「…あの…」
その時、抱えようとした女性と目があったのだ。
いつから目が覚めていたのだろうか。
可愛らしい容姿は流石は遊女だ。
怖がらせないためににこっと微笑むほの花だが、次の瞬間首を傾げることになった。
「あなた…秋元様の…部下の方…?」
聞き覚えのない"秋元"という人物。
ほの花はまじまじとその女を見つめることしか出来なかった。