第36章 命の順序
「気づいたところで意味ねぇけどなぁあ…。お前は段々と死んでいくだろうしなぁあ。こうしてる今も俺たちはじわじわと勝っているんだよなぁ」
宇髄に毒を食らわせたことで、既に妓夫太郎は死にゆくその様を想像できているのだろう。
ほくそ笑んだその時、元気な声が聞こえてきた。
「それはどうかな?!」
振り向いた先にいたのは先ほど炭治郎に加勢してくれと頼まれていた伊之助と善逸だった。
此処まで走ってきただけでやたらと元気な伊之助は血気盛んだ。
「俺を忘れちゃいけねぇぜ!この伊之助様とその手下がいるんだぜ!!」
「何だ、コイツら…」
妓夫太郎からすれば"柱"以外の小者が増えたところで何の興味もないのだろう。
呆れたような顔を見せたその時、宇髄の額当てにコツンと当たった小さな瓦礫。
──ドンッ
次いで宇髄の前に現れたのは禰󠄀豆子を背負った炭治郎の姿だった。
「下っ端が何人来たって幸せな未来なんて待ってねぇのになぁ。全員死ぬのにそうやって瞳をきらきらさすなよなぁあ…」
炭治郎はその光景に息を飲んだ。
自分が戦っていた時とは状況が一変していたからだ。
"上弦の鬼と戦える"と思っていたことがとんだ間違いだったと思わざるを得ない。
新たに出てきた妓夫太郎を見ると恐怖で手が震えた。
明らかにこの男が本体だと感じたのだ。
喉の奥が麻痺するような重い匂い。
震える手を何とか握りしめると後ろから頼もしい声が聞こえた。
「勝つぜ。俺たち鬼殺隊は。」
「勝てないわよ‼︎頼みの綱の柱が毒にやられてちゃあねぇ!!」
堕姫の発言に炭治郎は宇髄を見つめた。
それが本当ならばすぐに処置をしなければいけないのではないかと思ったからだ。
しかし、宇髄はニヤリと笑った。
「余裕で勝つわ!!このボケ雑魚がぁ!!毒回ってるくらいの足枷でトントンだっつーの!人間様を舐めんじゃねぇ!!」
絶対に負けない。
負けるわけにはいかない。
「コイツらは三人共優秀な俺の"継子"だ!逃げねぇ根性がある‼︎手足が千切れても食らいつくぜ!!」
宇髄の継子はほの花だ。
しかし、この戦いの場に連れてこれない。
それはほの花が殺されないためでもあったが、本能的にほの花の秘密に繋がることだと察知していたから。