第36章 命の順序
宇髄は日輪刀を振り回して、二人の鬼妓夫太郎と堕姫に果敢に挑んでいく。
二人を同時に相手にするのは骨が折れるのは間違いないが宇髄の勘が同時に攻撃しろと言ってくる。
妓夫太郎の鎌を受け止めながら、堕姫を蹴り上げれば漸く二人は離れるが、その分四方八方からの攻撃を受け止めなければならなくなる。
それでも宇髄は僅かな勝機を手探りで探している。
「俺の妹を蹴んじゃねぇええ」
「この糞野郎!!」
兄妹愛は結構なことだが、今まで殺してきた人たちは生き返りはしない。今回、捕まって助かった人は運が良かっただけだ。
──ドドドドドォン
宇髄が火薬玉を投げつけ、それを爆発させる。
その爆風に巻き込まれた堕姫が「ギャァッ」と悲鳴を上げたが、妓夫太郎は冷静さを保っている。
宇髄の火薬玉は鬼の体を傷つける威力。
斬撃の僅かな摩擦で爆ぜるそれを堕姫が気付かないで斬ったことで攻撃を食らった。
(すぐ攻撃を食らうからなぁ…アイツ)
妹の心配をしながらも宇髄と対峙していた妓夫太郎が驚いたのはその時だった。
急に刀身が伸びて自分に襲ってくる感覚に襲われたから。
慌てて宇髄を見れば、大きな剣の刃先を自らの握力だけで持ち、妓夫太郎に突きつけてきていたのだ。
(どう言う握力してやがる!!)
生身の人間のそれとしては信じられないほどの力に妓夫太郎も驚きを隠せない。
何とか鎌で弾き飛ばしたが、少しだけ頚に傷を負った。
「チッ、こっちは仕留め損ったぜ」
その言葉通り、宇髄の後ろには頚が落ちないように手で押さえて怒り狂う妹・堕姫の姿があった。
「うううう!また頚を斬られたぁ!糞野郎‼︎糞野郎‼︎絶対に許さない‼︎悔しい‼︎何で私ばかり斬られるの‼︎」
「うああああ‼︎」という泣き叫ぶ声を聴きながら妓夫太郎は宇髄のその戦い方にある答えに行き着こうとしていた。
「お前、もしかして気づいてるなぁ?」
「何に?」
宇髄の時間は限られている。
毒に侵された自分の体がいつまで保つか分からない。
ほの花に会えば解毒剤をもらえるだろうかとよぎったが、すぐにその考えは振り払われる。
(…駄目だ、アイツはコイツらに何故か狙われてる。俺が守ってやらねぇと…)
毒で体が動かなくなる前に倒せばいいだけ。宇髄は再び刀を構えた。