第36章 命の順序
「宇髄さんに加勢してくれ!!」
炭治郎は駆けつけた伊之助と善逸に向かってそう叫ぶ。
自分は眠っている禰󠄀豆子を何とかしなければならないが、あの飛び出してきた鎌の正体が気になって仕方がない。
「任せて安心しておけ!!大暴れしてやるよ!この俺様伊之助様が!!ド派手にな!!」←影響を受けやすい男
寝ながら鼻提灯を膨らませている善逸だが、寝ていた方が強い疑惑があるので、このままにしておくことが得策だろう。
炭治郎は伊之助と善逸に宇髄さんの加勢を頼むと禰󠄀豆子を箱に戻すため、その場を後にした。
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「妬ましいなぁ、お前本当に…いい男じゃねぇかよぉお。人間庇って格好つけてなぁあ、いいなぁ。」
先ほど投げつけられた鎌は宇髄ではなく、一般人に向けられていたのか。
宇髄の背後には寄り添う男女の姿。
「そいつらにとってはお前は命の恩人だよなぁあ。さぞや好かれて感謝されるんだろうなぁあ」
妓夫太郎の妬みは止まらない。
宇髄の容姿を妬み、宇髄の行動を妬み、宇髄の未来をも妬む。
その様子に宇髄もため息を吐くしかない。
「まぁな、俺は派手で華やかな色男だし、当然だろ。……女房も、……三人、いる。」
少しだけ言い淀んだのはその言葉に自信がなかったから。
確かに女房は三人"いた"。いや、今もそうなのだが、それは雲を掴むかのように不確かなもののような気がしてならない。
自分だけではない。
あの嫁三人ですら、宇髄との関係性に少しだけ困惑しているのを宇髄は見抜いていた。
まきをを抱こうとしたあの晩、まきをは夫である自分に抱かれることに首を傾げていた。
それだけではない。
雛鶴も須磨でさえ、一つ屋根の下に暮らしていると言うのにあまりに普通に自分と接触してこないのだ。
当たり前のように。
宇髄の隣は自分たちではないと言わんばかりに。
極め付けは自分自身の下半身問題。
遊郭で詩乃に勃起しなかっただけならまだしも、嫁を欲しいとも思えない自分がおかしいとどれほど悩んだか。
少しずつおかしいと思っていたことがおかしくないのではないかと思い始めていた。
まことしやかに、それは少しずつ…少しずつ宇髄の氷を溶かすようだった。