第36章 命の順序
「お兄ちゃん!コイツだけじゃないのよ!アタシを灼いた奴らも殺してよ!絶対!」
泣いて兄に縋るその姿はまるでこちらが虐めたような雰囲気を醸し出すが、元々は堕姫が鯉夏を食べようとしたことが原因だ。
そしてさらに掘り返せば、この遊郭を巣食って何人もの人を喰らってきたのは堕姫の方だ。
この二人が怒るのはお門違いにもほどがある。
「アタシ一生懸命やってるのに!凄く頑張ったのよ!一人で…!みんなで邪魔して虐めたの!よってたかって虐めたのよぉお!」
邪魔しなければ人が死んでいたし、虐めたという表現は正直鬼殺隊としては"どの口が言う"と言う状態。
しかし、この二人は鬼。
一般常識などとはかけ離れている世界で暮らしているのだ。
現状、わかりあうことなど不可能。
「そうだなぁ、そうだなぁ…そりゃあ、許せねぇなぁ。俺の可愛い妹が足りねぇ頭で一生懸命やってるのを虐める奴らは皆殺しだ。」
これが人間の世界ならば"やっかみ"もいい加減にしてくれと反論したくもなるが、そんなことをしても無駄だろう。
奴らはこちらを敵視して、自分たちが正しいと思っている。
しかし、人間もまた同じように鬼を敵視し、正しいと思い殲滅をしているのだ。
そこに歩み寄りの余力はない。
「取り立てるぜぇ、俺はぁ。やられた分は必ず取り立てる。死ぬ時ぐるぐる巡らせろ。俺の名前は妓夫太郎だからなぁあ」
手に持っていた鎌を振り下ろすとそれは宇髄の横を通り過ぎて建物の外に飛び出していき、再び戻っていく。
その様を見ていたのは寝てしまった禰󠄀豆子を抱いていた炭治郎だった。
先ほどまで戦っていた堕姫の武器は帯だった。
しかし、今あの部屋から出てきたのは帯ではなく、鎌のような武器。
それは新たな鬼の出現を意味しており、匂いに敏感な炭治郎は宇髄の血の匂いにも気づいていた。
(加勢に行かなければ…!)
そう思った瞬間、背後から聴こえた声に炭治郎は振り向いた。
「俺が来たぞぉ!ご到着だぁ、ボケェ!頼りにしろ俺をォォ!!」
それは待ちのぞんでいた仲間の到着だった。
「伊之助!善逸!!」
善逸は寝ているようだったけど、その二人の姿が炭治郎はやけに頼もしく見えた。