第36章 命の順序
「だったら何で頚斬られてんだよ。弱過ぎだろ。脳味噌爆発してんのか。」
「アタシまだ負けてないんだから‼︎上弦なんだから‼︎」
自分の頭を大事そうに抱えながら宇髄に向かってそう言葉を返すがどうしても強がりに見えてしまうのは状況的に致し方ない。
「負けてるだろ。一目瞭然に。」
「アタシ、本当につよいのよ!今はまだ陸だけど…!これからもっと強くなって…!」
「説得力ねー…」
一体"何"と会話をしているのだろうか。
目の前にいるのは駄々をこねる子どものよう。
先ほどの竈門禰󠄀豆子と変わらない。
「う、うわああああああん!!」
しかし、言い合いの末についに首を持ったまま泣き出した堕姫に宇髄はギョッとした。
目の前にいるのは鬼だ。
冷酷で慈悲情けもない鬼。
それなのに泣き始めたその姿は小さな少女のようだったから。
「アタシ、上弦の陸だもん!本当だもん!数字だってもらったんだから!アタシ凄いんだから!」
宇髄はギャン泣きするその姿を見て、だんだん様子がおかしいことに気付く。
鬼は頚を斬れば体が崩壊していくもの。
それなのに目の前の鬼は首を持ったままいつまで経っても話し続けている。
「死ねっ!死ねっ!みんな死ね!うわああん!頚を斬られちゃった!お兄ちゃぁあん!!」
"お兄ちゃん"そう堕姫が言った瞬間に体の中からぬるりと這い出てきたモノに宇髄は目を見開く。
そのおどろおどろしい空気感、ピリピリとした痛いほどの闘気。それこそが自分がずっと感じていた鬼。
そして、今、目の前に現れた其れを見るや否や日輪刀を振り下ろした。
考えるよりも体が動いた。それほど速く刀を振るった。
それなのに宇髄の刀は空を切り、目の前には誰もいない。
次いで後ろから感じたその気配に振り向けば、細身の男が堕姫を慰めている姿が目に入った。
その鬼の正確な強さはまだわからないが、反射速度が尋常じゃないことで一筋縄ではいかないことは理解できる。
「泣いてたってしょうがねぇからなああ。頚くらい自分でくっつけろよなぁ。お前は本当に頭が足りないなぁ」
頚を斬り落としても死なない。
背中から出てきたもう一体の存在に宇髄は冷静に殲滅方法を考えていた。