第36章 命の順序
──こんこん 小山の子ウサギは
なぁぜにお耳が長うござる
小さい時に母さまが
長い木の実を食べた故
それでお耳が長うござる
その歌は母が生きていた時によく歌ってくれた歌。
炭治郎も、禰󠄀豆子も…皆同じ歌で育った。
その歌が耳に入ってくると禰󠄀豆子の前に亡き母が見えた気がした。
──こんこん 小山の子ウサギは
なぁぜにお目目が赤うござる
小さい時に母さまが
赤い木の実を食べた故
それでお目目が赤うござる
遠い日の記憶。
それは禰󠄀豆子の大切な思い出。
もう帰らない
二度と帰らない
その幸せだった頃の生活
禰󠄀豆子の目にはみるみるうちに涙が溜まり、子どものように「わーーーん!!」と泣き噦った。
しかし、突然力が弱くなって体も縮んでいくその様子に炭治郎は胸を撫で下ろした。
その姿はいつもの禰󠄀豆子。
人を襲わない。
人を食わない。
人を助ける。
"良い鬼"の禰󠄀豆子だった。
「…寝た…。」
半信半疑だった"子守唄を歌ってやれ"と言う宇髄の言葉は功を奏し、禰󠄀豆子は見事に眠りについた。
「母さん…寝たぁ…。宇髄さん…寝ましたぁ…」
どっと疲れが襲ってきて、脱力感でその場に座り込む始末だが、腕の中にいる禰󠄀豆子を確かに抱きしめてその存在を確かめた。
その頃、宇髄は堕姫をそのままに再び鬼探しに出かけようとしていた。
「ちょっと待ちなさいよ!!何処へいく気?!よくもアタシの頚を斬ったわね!ただじゃおかないんだから!」
「まぁだ、ギャアギャア言ってたのかよ。もうお前には用はねぇよ。地味に死にな。」
宇髄が追っていた鬼の気配ではない堕姫に興味もない。
早いところ上弦の鬼を探さないといけないのだ。
「ふざけんじゃないわよ!だいたいアンタさっきアタシが上弦じゃないとか言ったわね!」
「だってお前上弦じゃねぇじゃん。」
「アタシは上弦の陸よ!!」
喚き散らすその姿に威厳も威圧感も感じない。
宇髄からしてみたら上弦の鬼に当たらない強さの堕姫に時間を使っていることすら勿体ないと感じるのだ。