第36章 命の順序
暴れ回る禰󠄀豆子を抑えている炭治郎の元にドゴォッという大きな音を立てて帯が入ってきた。
襖や畳は吹き飛び、人々は悲鳴をあげている。
次から次へと一体今日は何と言う厄日なのだ。遊郭で働く普通の人からすれば記憶に残る最悪な日だのう。
ひた…ひた…
そこに入ってきたのはもちろん堕姫。
しかし、その姿は元の美しい姿は見る影もない。
顔は半分ほど焼け爛れ、髪は乱れ、体もところどころ爛れている。
上弦の鬼ともあろう堕姫の回復速度が明らかに追いついていない証拠だ。
「よくもまぁ…やってくれたわね。そう、血鬼術も使えるの。鬼だけ燃やす奇妙な血鬼術…」
怒りで血管が浮き出て、ビシビシと恐ろしい闘気を出してこちらを睨みつけてくるその様子に炭治郎は息を呑んだ。
「しかもこれなかなか治らないわ。物凄く癪に障る。物凄くね…」
あたりを見渡せばこちらを固唾を飲んで見守る一般人の姿が見える。
それは要するに彼らを守りながら戦わなければならないということ。
禰󠄀豆子が暴れている上に、堕姫は怒り狂っていて、しかも一般人もいる。
うねうねと動く帯はいつ攻撃が来てもおかしくない。
(…考えろ、考えて行動しろ…!)
あちこちに目線を彷徨わせて己のすべき行動をいくつも考えるがまとまらない。
──シャラン
すると、目の前に突然現れたその人に炭治郎は目を見開く。
全く気配がなかった。少しも風も揺らがなかった。そして底知れぬ安心感がそこにはあった。
「おい、これ竈門禰󠄀豆子じゃねーか。派手に鬼化が進んでいやがる。」
「うっ…!?」
そう、突然現れた人物は鬼殺隊 音柱 宇髄天元その人だったのだから。
「お館様の前で大見栄切ったんだろ?それなのになんだ、このていたらくは。」
宇髄はほの花に記憶を消されている。
その時の柱合会議の内容はその後、胡蝶が話していたので、禰󠄀豆子のこの状態がその時の炭治郎の発言が説得力のないものだということだけは見て取れる。
「…‼︎柱ね…そっちから来たの?手間が省けた…。あの女は何処にいるの?教えなさい。」
堕姫にとっての一番の目的は柱を殺して喰うこと。
そしてほの花を殺すこと。
本人が自ら来てくれたのならば飛んで火に入る夏の虫だ。