第36章 命の順序
威圧感、圧迫感…全てが先ほどまでの禰󠄀豆子とは違う。それに驚きながらも攻撃は一本調子。
再び堕姫に襲いかかった禰󠄀豆子は懲りずに再び蹴りを喰らわせるが、帯によって気に裂かれてしまう。
「次は頚よ!!」
馬鹿の一つ覚えのように蹴りばかりを繰り出す禰󠄀豆子に堕姫は呆れたように帯を振り回して、頚に帯を向けた。
しかし、その攻撃は禰󠄀豆子に届くことはなく、うめき声をあげるのは堕姫の方だった。
「げぅ…!」
斬り落とされたはずの足で禰󠄀豆子が堕姫を踏み潰し貫通させていたからだ。
一瞬で再生したのならば、堕姫の回復速度を上回っている。
自分の下で苦しむ堕姫を見て、ニヤリと怪しく笑う禰󠄀豆子に人間の面影はない。
まさに鬼そのもの。
それも上弦の鬼に匹敵するほどの強さを誇るその姿は見るものを恐怖に陥れることだろう。
「どけ!!このガキ!!」
しかし、堕姫とてそのままやられっぱなしなわけがない。
帯を禰󠄀豆子に打ち付けると細かく切断して帯に取り込もうとした。
次々とバラバラになっていく禰󠄀豆子の四肢を見れはまるで地獄絵図。
それなのに縦横無尽に禰󠄀豆子を襲うその帯を止めたのは切断した筈の四肢。
あろうことか禰󠄀豆子の四肢は血を固まらせて、尚動き堕姫に向かっていった。
そのままぼとぼとと落ちてきた返り血が堕姫にかかったかと思うと、急にその体が燃え上がったのだ。
「ギャアアアッ‼︎」
燃え上がる炎の中で何かの記憶が一瞬垣間見えた堕姫だったが、すぐにそれは振り払われてしまう。
斬り落とされた四肢がすべて元の位置に戻った禰󠄀豆子がニヤリと笑いながら燃え上がる炎の中にいる堕姫を踏みつけ始めたから。
──グシャ ダン ダン ダン
人間の所業ではない。
いや、鬼なのだが、もはや惨すぎる目も当てられないほどの禰󠄀豆子の攻撃。
ドガァッと言う音と共に建物に堕姫を蹴り上げると建物と建物を貫通して吹っ飛ばされていく。
しかし、追いかけようと建物の中に入った瞬間に禰󠄀豆子の目に止まったのは
血を流した女性の姿。
鬼である禰󠄀豆子にとって
枯渇したそれを補給しようとするのは本能的なものだろう。
禰󠄀豆子の口からは涎が溢れ出ていた。