第36章 命の順序
炭治郎の体が屋根の上に力なく横たわると同時に禰󠄀豆子は瓦を蹴った。
そのまま蹴りの体勢で堕姫の懐に飛び込むと迷いなく蹴り捨てる。
(…蹴るしか能がないのか?)
しかし、そんな単調な攻撃を堕姫が簡単に喰らうわけもなく、帯によって脚を切り落とされてしまう。
「雑魚鬼が!!」
──ドゴォォン
容赦なく禰󠄀豆子を襲う帯は足だけでなく、腕を斬り裂き、建物に吹っ飛ばされてしまう。
鬼同士の強さの度合いは鬼舞辻無惨の血の濃度、そしてどれほど人を喰らったかで変わってくる。
禰󠄀豆子は人をほとんど喰らっていない。
堕姫と比べてしまえばその差は一目瞭然の筈なのだ。
堕姫はゆっくりと屋根から降りて禰󠄀豆子が飛ばされた建物まで向かう。
「弱いわね。たいして人を喰っていない。どうしてあの方の支配から外れたのかしら?」
不思議そうに壊れた建物の瓦礫を見つめているとズルズル…と禰󠄀豆子が這い出てくる。
手は千切れ、血が噴出して、目は血走っている。
「…可哀想に。胴体が泣き別れになってるでしょ?動かない方がいいわよ。」
それは優しさか?
否、憐れみだ。
大して人を喰らってもいない禰󠄀豆子が重傷の傷をすぐに治すことは不可能。
そう悟った堕姫は情けをかけて笑いかける。
「同じ鬼だもの。もう虐めたりしないわ。帯に取り込んで朝になったら陽に当てて殺してあげる。」
堕姫の目的は別にもある。
弱い鬼を殺すためならばそれで十分だ。
鬼同士の戦いなど時間の無駄なのだとほくそ笑む堕姫。
早く柱のところに行こうと思い、帯に禰󠄀豆子を取り込もうとした瞬間。
ゆっくりと立ち上がった禰󠄀豆子に目を見開く羽目になった。
何故ならば先ほど堕姫は帯の斬撃で胴体と足を斬り裂いたのだ。
間違いなく斬った感触があった。
それなのに立ち上がった禰󠄀豆子のそれは繋がっていて、さらに無くなっていた腕を少し上げるとものの数秒で再生させてみせた。
その再生速度は上弦に匹敵する。
バリンと咥えていた竹が口から外れると禰󠄀豆子の禍々しい空気感に堕姫はたじろぐ。
その姿はまさに鬼に変貌を遂げていたのだから。