第36章 命の順序
「ゴホッゴホッ…!」
炭治郎の咳は止まらずに肺から血が溢れてボタボタと口から流れ落ちる。
禰󠄀豆子は唸り声をあげながら見つめる先にいるのは堕姫。
「ううゔッ!ううゔッ!」
上弦の鬼と言うのは鬼舞辻無惨の血が濃度が高い。それは今まで禰󠄀豆子が遭遇したどの鬼より高かった。
「よくも…よくもやったわね…?アンタ…、そう…アンタなのね…!?」
頭部を禰󠄀豆子に蹴られて破損しても尚、生きている異質な存在。
鬼とはそう言うもの。
上弦ともなればその回復速度は凄まじい。
怒りで震えながら再び作られた目は禰󠄀豆子を刺すように睨みつけている。
「あの方が言っていたのはアンタなのね?」
人間には限界がある。
でも、鬼なら?禰󠄀豆子は?
その激しい怒りが無限に体を突き動かす。
敵の肉体がこの世から消えて無くなるまで。
堕姫は思い出していた。
"あの方"鬼舞辻無惨との会話を。
「堕姫、二つ頼みがある。一つ目は…私の支配から逃れた鬼がいる。珠世のように。見つけて始末してくれ。お前にしか頼めない。」
恋人のように
親のように
優しく触れる鬼舞辻が堕姫に頼んだのは鬼の始末。
麻の葉紋様の着物に市松柄の帯の娘。
"竈門禰󠄀豆子の抹殺だ"
「…もう一つは山奥にひっそりと暮らす陰陽師一族を皆殺しにしてくれ。ただし、陰陽師の長"神楽家"の娘は喰うな。お前が喰ったら死ぬだろう。代わりに出血しない方法で確実に殺せ。神楽家の娘の血は鬼にとって猛毒だ。」
そして、もう一つは神楽家の抹殺。
しかし、此処での誤算はすべて皆殺しにしたと思っていたことだ。
鬼にとって一番厄介な娘は里にはおらず、外出中。
娘がいるかどうかという情報を必死に隠し通してきた里の一族たちによって、皆殺しになるまでほの花の存在は明らかにならなかった。
だが、いま…、分かったのだ。
鬼にとって一番厄介な女であるほの花の生存を。
堕姫は目の前に訪れた千載一遇の機会に打ち震えた。
「…ええ、必ず。嬲り殺して差し上げます。この娘も、あの女も…!お望みのままに…!」
鬼舞辻無惨の腹心、十二鬼月である堕姫と
鬼舞辻無惨の支配から逃れた竈門禰󠄀豆子の闘いの火蓋が切って落とされた。