第36章 命の順序
程なくして建物が崩れ落ちていくその様は地獄絵図。
抉られたような跡があったかと思うと、中で人が血を流して倒れている。
窓から顔を出してこちらを見ていた人は攻撃が直撃して屋根瓦の上で血まみれでピクリとも動かない。
たった一撃。
たった一撃でこんなにも威力がある。
上弦の鬼の攻撃。
しかも、一般人を守りながら戦わなければならない。
ボタボタ…と自分の体からも血が流れていく炭治郎は冷静になろうと必死に頭を回転させた。
あちこちで悲鳴が上がる中、後ろにいた男に声をかける。
「…お、落ち着いて。貴方は助かります。腕を紐で縛って止血して。お、俺の仲間が生きてれば手当てをしてくれる…。大丈夫です。」
そうだ。
ほの花がいる。ほの花が来てくれたらきっと助かる。
炭治郎はふぅ…と長い息を吐いた。
自分も軽傷ではない。でも、此処には今、鬼殺隊は炭治郎しかいないのだ。
こちらを見下ろして口角を上げて、興味もなさげに去ろうとしている堕姫。
"柱"とほの花のところへ行くつもりだ。
"あの二人を倒せば鬼舞辻無惨が喜ぶから。"
しかし、炭治郎は去り行く堕姫に呼び止めた。
「待て、許さないぞ…こんなことしておいて…」
罪のない人をいとも簡単に殺していく鬼。
自分の家族も殺された。
簡単に人を傷つける。
自分の私欲のために。
「何?まだ何か言ってるの?もう良いわよ、不細工。醜い人間に生きてる価値なんてないんだから。仲良くみんなで死に腐れろ。」
あちこちで「助けて!!」「誰かぁ!!」と叫ぶと人間たちの悲痛な声が炭治郎に聴こえてくる。
心臓の音が煩い。
怒りでドッドッドッドッと大きく拍動するそれにを止める術はない。
フツフツと湧き上がる怒りに比例するかのように心拍数はどんどん上がっていく。
そして、ドクンと大きな脈打つと炭治郎の瞳が血で染まる。
──── 人にはどうしで引けない時がある
人の心を持たない者がこの世にいるから
理不尽に命を奪い、反省もせず悔やむこともない。
その横暴を俺は絶対許さない ────
炭治郎は地面を蹴り、僅か数秒で屋根に上ると堕姫の足を掴みその歩みを止めた。
歩ませない。
理不尽な殺戮の道だけは。