第36章 命の順序
散り散りになっていた帯が戻る場所。
それは本体だ。
大穴から這うように怪しく進んでいく帯達が目指すのは堕姫の本体。
そして本体と戦闘中だったのは炭治郎。
猛烈な速度で戻ってきた帯は吸い込まれるように堕姫に吸収されていく。
(何だ…?帯が体に入ってる…。いや、戻っていったのか、分裂してた分が)
しかし、その状況が芳しくないことは空気で感じ取った炭治郎は再び日輪刀を構えて、吸収させまいと慌てて刀を振るった。
先ほどまでなら"戦えていた"というのに、目の前から消えた堕姫に炭治郎は辺りを見渡す。
「やっぱり"柱"ね。"柱"がきてたのね。しかも、あの一族の生き残りの女まで発見するなんて…。よかったわ。あの方に慶んで戴けるわ。」
帯を吸収したことで、堕姫の姿は変化していく。
頭髪は黒から白へ。
禍々しいほどの匂い、喉の奥もピリピリした。
しかしながら、炭治郎は少しだけ安堵もしていた。
伊之助達のところに宇髄がいるのだと言うことに。"柱"がいれば安心だ。
この時は誰しもがそう思っていただろう。
目の前にいる鬼を倒すためには"柱"が必須。あの時とは違う。今度は自分達も戦えるのだ。
堕姫の姿の変化を下から見つめていると炭治郎の元に声を荒げながら近寄ってきた男がいた。
「おい!何をしているんだ!お前たち!人の店の前で揉め事起こすんじゃねぇぞ!!」
それは最悪な状況だ。
鬼、それも上弦の鬼の前で一般人などひとたまりもない。
のこのこと堕姫の前に歩いてきたその男に炭治郎も大声で叫んだ。
「駄目だ!!下がってください!!建物から出るな!!」
炭治郎の忠告は遅過ぎた。
「煩いわね」と呟いた堕姫がその男諸共、攻撃を放ったかと思えば、それは建物さえおおきくえぐられるほどの衝撃。
当たれば人間などひとたまりもない。
炭治郎も左肩から胸にかけての裂傷により、血が噴き出した。
そして守るようにして立ちはだかったのにそれも虚しく、後ろにいた一般人の男性の手首が吹っ飛んで血飛沫を上げる。
「グアアアアッ!」
生まれて初めてそんな酷い怪我をしたに違いない。あるはずのところに手がなくて、夥しい出血に錯乱している。
たった一度の攻撃でどれほどの人が怪我をしたのか炭治郎は見当もつかなくて途方に暮れた。