第36章 命の順序
宇髄さんが来てくれた。
それは私たちにとって一番の朗報だ。
目の前で宇髄さんの周りに集まっているまきをさんと須磨さんを見るとほっとした。
彼に奥様を返せたことへの安心感。
そして、自分が間違わなかったことへの安堵感。
この場においてやっぱり宇髄さんのお荷物になるのは絶対避けなければならない。
しかし、ホッとなんてしている場合ではなかったことに背後からの殺気で気付いた。
瞬間的に帯が此方に向かってきたので、舞扇で受け止める。
「っ!!」
強い衝撃で痛めた肋骨が軋んだが、私が避ければすぐ後ろには捕まった人たちがいる。
此処で避けたら人を殺してしまう。
「アンタだけは先に殺しておかないと害悪になるからね!血は出さないでよ。でも…死んでもらう。あの方のためにも。」
あの方…?
あの方のため?
ああ、そうか。鬼は全て鬼舞辻無惨が作り出したもの。
目の前の堕姫も。
その全てに対して害悪な私の血は鬼舞辻無惨にとっても害悪。
急ぎ、私だけ殺そうとするのは悪い芽は最初に摘んでおこうと言うだけのことだろう。
血を出させないようにあの帯で締め付けて殺すつもりだ。あの穴から外に出て。
自ら血を垂らせば足止めくらいはできるかもしれないが、それでは珠世さんに血を渡した意味がない。
一度でも奴らに私の血の成分を悟られたら、それを使って毒を作っていることが全て水の泡になってしまう。
それこそ一番望まないことだ。
体に巻きつこうとしてくるその帯を舞扇で受け止めていたが、四方八方から来るそれに冷や汗が垂れた。
避けたら人に当たってしまう。
でも、避けなければ自分が捕らえられてしまう。
どちらも選べずに浅い呼吸を繰り返していると、ふわっと風が吹き、光のような速さでその帯が散り散りになった。
「…触んなっつーの。」
「ちっ…!!」
目の前には見覚えのある背中。
先ほどまで奥様と一緒にいたのに、こんな一瞬で駆けつけてくれたの?
駄目。
駄目だよ。
嬉しいだなんて思ったら。
私は、ただの継子なんだから。
それでも、振り返った彼の瞳が優しくて私は一瞬息をするのも忘れるほど魅入ってしまった。
込み上げるそれを隠すために何度も唾液を飲み込んだ。