第36章 命の順序
堕姫は突然現れた善逸の雷の呼吸の速さに目を見開いている。
まさかまだ仲間がいるとは思いもしなかったから。
鬼殺隊が潜入しているのは何となく気づいていたがこんなに人数がいるとは夢にも思わなかったのだろう。
しかし、堕姫の懸念材料はそれだけではない。
善逸の雷の呼吸と同じ瞬間に物凄く大きな音が聴こえたような気がしていた。
(一つはアイツ…。もう一つは…上から…)
──ドゴォォン!!!
一体何なのだ?と上を見た瞬間、大きな爆発音と共に天井にどでかい穴が開いた。
瓦礫がゴトン、ゴトン…と落ちていく中で、皆それぞれがその穴に釘付けになる。
そしてその穴から入ってきた白い虎にほの花だけが安堵のため息を吐く。
それは宇髄に遣いにやった式神だから。
帰ってきたと言うことは…?
爆風と共に香ってきたその匂いが大好きな人のものだと信じて疑わない。
(風?風穴が開いたの…?地上から地下まで何をしたら穴を開けられるのよ…)
明らかに動揺している堕姫は大きな穴に目を奪われながらもあたりに神経を研ぎ澄ませた。
(いる…。誰か入ってきた。)
ピリピリと痛いほどの闘気が堕姫を襲った。自分だけに向けられているそれは此処にいる誰よりも凄まじいもの。
(この気配…柱!!)
煙が徐々に消えていき、二つの日輪刀を構えた男の姿を確認すると帯は他には目もくれずに一直線に帯を振り下ろした。
自分に全て向かってきたのにも関わらず、全てを薙ぎ倒してバラバラになっていく帯を見て冷たい視線を向けるその姿に味方ですら敵に回したくないと思うほど。
(良かった…!宇髄さん、来てくれた。)
ほの花はその姿を確認すると漸く、ほっと一息吐いた。
抱きつきたい衝動を堪えて、帰ってきた白虎を撫でた。
「…ありがとね。」
擦り寄る白虎に労いの言葉をかけるとその術を解除した。
顔を上げた視線の先にあるのは宇髄の背中。
「…まきを、須磨。遅くなって悪かったな。隆元、大進もよくやってくれた。」
「天元様…。」
「天元様ぁ〜…!」
潜入調査をしてくれていた四人に声をかける宇髄もまた生きていてホッとしていた。
漸く自分の出番だとニヤリと笑うと日輪刀を構え直した。
「こっからはド派手にいくぜ!!!」