第36章 命の順序
「須磨ァ!!弱気なこと言うんじゃない!!」
「だってだってー!まきをさん、私が味噌っかすなの知ってますよね?すぐ捕まったし!」
これはいつもの宇髄家の風景だ。
こんな時、いつもなら雛鶴が仲裁に入るのだが、今はいない。
二人を守るようにして隣に陣取る隆元と大進もあたふたしながら顔を見合わせて、武器を堕姫の帯に向けている。
「無茶ですよぉー!捕まった人たちみんな守り切るのは!私、一番に死にそうですもん!」
「須磨さんは死にません。」
その時、須磨の前に歩み出たのはほの花だった。
後ろを少し振り向き、笑顔を向けると須磨の目には涙が溜まっていた。
「私が守りますので。」
そう。ほの花からして見れば、元恋仲ということを抜きにして、彼女達は大切な師匠の妻。
守るべき対象なのだ。
「ほの花さぁん…!!」
ほの花の背中を見ると、涙を手の甲で拭いとって、なんとか前を見据えて再びクナイを握りしめた須磨だったが、帯は容赦なく全員に襲いかかっていく。
「無駄なこと。さぁ、どれから喰ってやろうか!」
怪しく笑った帯に伊之助は冷や汗を流す。
先ほどの堕姫の言葉を思い返せば、この帯が本体でないと言っていた。
(…まずいぞ、それが本当なら戦いに終わりが見えねぇ)
いつになったら本体が出てくるのか、それがわからない今、体力が保つのか全く検討がつかない。
猪突猛進でぶっ続けに全力で行くのはいくら伊之助でも無理だからだ。
すると、スッと背後に気配を感じた。
伊之助がそれに気づき振り返った瞬間、ドゴォォンというけたたましい大きな音と共に雷の呼吸が轟いたのだ。
「善逸!!」
ほの花の声に伊之助は頷くと、精一杯の嫌みを言ってやる。
「…お前、ずっと寝てたほうがいいんじゃねぇか。」
そう思うのは無理はない。
善逸は寝ている時の方が自分の力を発揮するのは説明不要だろう。
「あれ…?あの子どこかで見たことが…」
「どこで見たのって言うのよ!あんな変な格好の奴!」
ほの花は須磨とまきをのその会話に苦笑いをした。
善逸は蝶屋敷から送ってくれる時に須磨に目撃されていたから。
(…でも、誰だかわかんないよね…)
ほの花の苦笑いは誰にも見られることはなく、その場に溶けていった。