第36章 命の順序
「むきむきネズミくん!ありがとう…!!」
コクコクと頷きながら自分の得物を渡してくれるその幻獣を見ると思い出すのは宇髄さんのこと。
白虎はうまく伝えてくれただろうか。
このまま帯だけならば私と伊之助で何とかなるだろうか?
舞扇を手にして、伊之助の隣に再び並ぶとそれを帯に向けた。
腕を上げれば肋骨に更なる鈍い痛みを感じるが、闘えないほどではない。
伊之助を見れば、バタバタと帯を斬り捨てていてその斬り捨てた切り口からは人間がズルズルと落ちてきていてドサッと落ちていく。
感覚的なものだろうが、伊之助は上手いこと人間を避けて斬っている。
鬼からしたらせっかく鮮度の高い食糧を保存していたのに迷惑極まりないだろう。
しかしながら、伊之助の野生の感覚は研ぎ澄まされていると言っていい。
勘の鋭さ、特に殺気を感じ取る能力はずば抜けている伊之助は前後左右どこからの攻撃も敏感に察知して躱していく。
堕姫は考えた。
正直なところ、食糧庫まで鬼狩りが入ってくるとは思わなかったのだ。
(…どうする?)
その時、堕姫の中からもう一つの声が囁きかける。
──生かして捕えろ。そいつは"まきを"を捕らえた時に邪魔をした奴らだ。保存していた奴らも極めて美しい10人のみ残して殺して構わない。ただ殺すより生捕りは難しいかもしれないが、そこにいる何人か喰ってお前の体を強化しろ
それは一体誰の声なのか。
堕姫はその声にじっと聴き入ると雄叫びを上げながら斬りかかってきた伊之助に応戦するのではなく、帯をぐねぐねとくねらせた。
(?!斬れねぇ!グネるせいか!)
しかし、伊之助はその帯の形態変化に即座に対応する。
刀を持ち替えるとそのまま全集中していく。
──獣の呼吸 陸の牙 乱杭咬み
その攻撃が帯に直撃するが、そこに現れている堕姫の分身であろう目と口が嘲笑うかのように伊之助を見る。
「アタシを斬ったって意味ないわよ。本体じゃないし。せっかく救えた奴らが疎かだけどいいのかい?」
「ご心配無用!!」
其処に現れたのはむきむきネズミから舞扇を渡された鬼殺隊であるほの花の姿。
助けた人たちの前に守るように舞扇を向けていた。