第36章 命の順序
「よっし!いいぞ!ほの花!」
「た、助かった…!ありがと、伊之助…!」
漸くその痛みを伴う拘束から逃れられたかと思ったらほの花だったが、自由になった身を動かしてみると肋骨に痛みが走った。
「ッ…!」
「お、な、何だ!どうした?!」
まさか自分が身まで斬ってしまったのではないかとギョッとしてほの花を見つめてきた伊之助。
痛みの正体は恐らくは骨折。
完全に折れているのかヒビが入っているのかは分からないが、動かすだけで痛みを伴う其れにため息を吐いた。
「ううん。大丈夫。大したことない。」
「そうか?ならいいけどよ。」
「良くないねぇ、お前は一体何してるんだい?」
怪我としては大したことはないのは本当だ。しかし、掘り下げる前に、聴き覚えのあるその声に伊之助とほの花は後ろを振り向いた。
(…堕姫…‼︎)
ほの花は一人、額から冷や汗が流れ落ちた。
もう人を喰って戻ってきたのかと思ったからだ。
しかし、そこに居たのは堕姫の本体ではなく、帯だけだった。
それはまだ本体はどこかで人間を喰らっている証拠と言える。
帯だけならば本体ほどの威圧感と強さはない。
少しだけホッとすると伊之助と共にその帯に向き合った。
「余所様の食糧庫に入りやがって。汚い!汚いねぇ。汚い、臭い、塵虫め。」
怪しい動きをしながら近づいてくるその帯に向かって伊之助は飛び上がった。
「ぐねぐねぐねぐね気持ち悪ぃんだよ‼︎蚯蚓帯‼︎」
体をひねらせながらも日輪刀を振り下ろしていく伊之助は「グワハハハ!」と得意げに笑っている。
「動きが鈍いぜ‼︎欲張って人間を取り込みすぎてんだろ!でっぷり肥えた蚯蚓の攻撃なんぞ伊之助様に当たりゃしねぇ!ケツまくって出直しな!」
ウネウネと動くその様は確かに蚯蚓のように見えるが、絶妙に人間のいるところを避けて斬っていく伊之助の太刀裁きにほの花は感心していた。
自分も何とか戦闘に入りたいが、武器がない。
悔しさで唇を噛んで立ち尽くしていると、ツンツンとほの花の足に何かが触れた。
視線をやればそこに居たのは宇髄の幻獣むきむきネズミだった。
その手には一対の舞扇。
ほの花の得物だ。