第36章 命の順序
白虎に宇髄への伝言をお願いしてから数十分が経った頃、ほの花はその空洞で帯に締め付けられながらも何とか意識を保っていた。
(痛いけど…、まだ耐えれる。でも、骨が軋む…)
死なない程度に絶妙な力具合で締め付けられている理由はほの花に血液を出させないためだ。触れたら消し飛ぶやもしれない其れを堕姫は恐れているはず。
強い締め付けに耐えているが、それはほの花の体を容赦なく痛めつけて肺が圧迫されて苦しい。
見上げた天井には小さな穴がある。
恐らくそこからこの帯が出入りしていたのだろう。
どのみち、宇髄が間に合わなければほの花は一目散に斬られて死ぬだろう。
ほの花が生きていることが鬼にとっては脅威だから。
しかし、鬼にとって幸運なのはほの花が柱ほどの実力がないこと。
陰陽道も女児にはほとんど遺伝しない。
ほの花は身一つで叩き上げてきた自分の体術と舞扇、そしてほんの少しの陰陽道しかない。
上弦の鬼との戦闘など無謀にも程がある。
その時だった。
ドゴッと言う音と共に何かが降ってきたのだ。
鈍い痛みと息苦しさが続くために体力温存のため目を閉じかけていたほの花だったが、その音に意識が呼び覚まされる。
そしてそこにいた人物に目を見開いた。
キョロキョロとしてまだ自分の姿には気づいていないその人物にほの花の目に薄っすら涙が溜まった。
宇髄ではなかったが、助けが来たのは有難い。
善逸の帯の前で止まって首を傾げているその男にほの花は痛めつけられている肺に思い切り酸素を送り込み叫んだ。
「伊之助…!」
その瞬間、此方に首を向けた伊之助はほの花の姿を見て直ぐに此方に駆け寄ってきた。
「ほの花‼︎何だよ、生きてたのか‼︎良かったぜ!」
「い、生きて、るけど…、此れ斬って、お願い…」
息も絶え絶えなほの花。
それもその筈。
肺は圧迫され続けているせいでうまく酸素を取り込めていなかったのだ。
白っぽくなりつつあった意識が完全に覚醒したのは伊之助がその帯を叩っ斬ってくれた後のことだった。