第36章 命の順序
「グワハハハ‼︎見つけたぞ‼︎鬼の巣に通じる抜け穴を‼︎ビリビリ感じるぜ‼︎鬼の気配!」
遊女の証言通り、天井やら床やらを壊しまくって探し出した穴を見て伊之助は高らかに笑った。
炭治郎を待たずして見つけ出した自分に最高の気分だったのだ。
廊下で大きな声を上げて穴に向かっている伊之助を見ている人もいるのに動じることはない。
猪突猛進‼︎と言わんばかりにその穴に頭から突っ込むが、己の肩に阻まれて通れない。
いくら体を揺すっても入っていかないその穴の小さいこと。
伊之助は仕方なく一度起き上がるとその穴を見つめた。
「ハハハ‼︎頭しか入れねぇというわけだな‼︎」
状況的には良くないというのに伊之助からは自信が溢れていた。
それもその筈。
伊之助には特殊能力があったのだ。
「甘いんだよ!この伊之助様には通用しねぇ‼︎俺は身体中の関節を外せる男‼︎」
そう言うとゴキュゴキュ、という音を立てながら全身の関節を外していった。
その姿は先ほど遊女が言った「化け物」と言う言葉もあながち間違いではないかと思うほど。
「つまりは頭さえ入ればどこでもいける!」
その状態でもう一度穴に突っ込むとそのまま土竜のように入っていった。
「グワハハハ!猪突猛進‼︎誰も俺を止められない‼︎」
ズモモモモという音を立てながら物凄い勢いで進んでいく伊之助。
恐らく此処に炭治郎が居たとしても通れなかった。
まさに伊之助ならではの戦法だ。
「ウオオオオオ!」という雄叫びを上げながら伊之助はずんずんと進み、ボンという音と共に抜け出た大きな空間に目を見開いた。
其処にあったのは何十もの帯。
連なるようにして人間の顔が見られるそれは異様な光景だ。
伊之助も一つ一つその帯に目を移していく。
(人間柄の布?何だこりゃ。)
詳しいことは分からない。ただ閉じ込められている人間を好きな時に喰わんとする鬼の魂胆だけが野生の勘でわかった伊之助。
どれが宇髄の妻なのかは分からない。顔を見たことがないからだ。
しかし、一人見たことのある黄頭を見つけると思わず声が出た。
「何してんだ、こいつ」
「伊之助…‼︎」
その声に反応したのは善逸ではない。
高めで柔らかい声は伊之助も聴いたことがある声だ。
お互いの目線が合うと二人の口角が緩んだ。