第36章 命の順序
──ドッドッドッドッ
炭治郎の心臓は激しく拍動し、呼吸は過呼吸ほどに浅い。
吹っ飛ばされた体はヒノカミ神楽の連発で反動が来ていた。
筋肉は緊張し、体は強張る。
(落ち着け…‼︎)
自分の体の状態は冷静に把握できている炭治郎だったが、刻々と迫り来る鬼に必死に呼吸を整えていた。
一歩
もう一歩
回復の呼吸を試みる炭治郎に着実に近づいて来る蕨姫という鬼。
そして地面を蹴り上げて一瞬で目の前まで来た蕨姫が炭治郎に帯を叩きつけようとした時、なんとか体を翻し体勢を立て直すことに成功した。
しかし、息一つ乱れていない鬼と既に呼吸の浅さと筋肉疲労が否めない炭治郎とではその差は歴然。
ギャイン──と帯と刀がぶつかり合う音が響き渡るが、強靭な帯は刃物のようで斬ることができない。
隙の糸を見つけてもすぐに切れてしまい、致命傷を負わせることはできない。
(俺の攻撃が遅いんだ…!体温を上げろ!もっと体温を‼︎)
それは炭治郎が見つけ出した一つの答えだった。
あれは蝶屋敷で──
「私、しのぶ様とほの花さんに言いますから。炭治郎さんの熱が下がらないこと」
きよは炭治郎に向かって涙ながらにそう訴える。
その涙を見てタジタジになりながらも目の前の炭治郎は頭を下げた。
「きよちゃん、頼む!この通りだ。俺は大丈夫だから。」
「でも…」
しのぶに言えば診察をされ、ほの花に言えば解熱剤を処方してくれるだろう。しかし、炭治郎はそれをしたくなかった。
何故なら…
「熱が出ている状態だと本当に調子がいいんだ。ヒノカミ神楽を連続して使えるんだよ。もっと強くなれるかもしれない。」
そう。炭治郎は修行の最中に体温を上げることで自分の体の変化に気づいていたのだ。
体温さえ上がればもっと技が使える。
そう思った炭治郎はきよに頼み込んでしのぶとほの花に内緒にしてもらったのだった。
──ギィイイン
鈍い金属音が響き渡ると炭治郎が飛ばされるのは変わらないが、何とか上弦の鬼と戦えていた。
それはあの発熱した中で行った修行の成果と言っても過言ではなかった。