第36章 命の順序

炭治郎の攻撃の太刀筋が変わったことことなんてすぐに気付く。
スパンと斬られた帯が先ほどよりも斬れ味が格段に違うからだ。


先程よりも鋭い太刀筋に一瞬たじろぐ。
しかし、それよりも気になるのはゴオオオオという音。


(…何、この音。嫌な音ね。呼吸音？)


しかし、そんなことを気にする余裕を持つことすらできない。炭治郎が体勢を変えるとすぐさま地面を蹴って再び蕨姫に向かってきたから。



──炎舞



振り下ろされた攻撃を躱す蕨姫には再び余裕が出てきた。
炭治郎の攻撃の速度などタカが知れている。
自分の速度には敵わないと。


それでも炭治郎だけは違った。
炎舞は二連撃で躱されてももう一撃あるからだ。


炭治郎がもう一撃喰らわせようとした時、先に攻撃を仕掛けたのは蕨姫だった。


(所詮、この程度ね…)


帯が炭治郎に当たって決着はつくと思い込んでいた蕨姫の目に飛び込んできたのは炭治郎の残像だった。




標的を失い、空を切る帯だけが其処に残り、辺りを見渡すことしかできない蕨姫。



その技はヒノカミ神楽　幻日虹
高速のひねりと回転による躱し特化の舞
視覚の優れたもの程よりその残像をくっきりと捉えてしまう




大きく体をひねらせて蕨姫の背後を取った炭治郎が再び太刀を構えたところで二人の目線は合致する。



(見えた！隙の糸だ！いける…‼︎)


炭治郎の目に映ったのは蕨姫から出ている隙の糸。此れが出ていれば首を斬れる。
上弦に勝てるかもしれない。


──ヒノカミ神楽　火車



「遅いわね。欠伸が出るわ。」



しかし、技を放った直後、蕨姫はジト目で炭治郎を見つめたかと思うと、その瞬間隙の糸が切れてしまう。

倒せるかと思ったのは一瞬のこと。


蕨姫は炭治郎に向き直るとその体に向けて帯を叩きつけたのだ。


隙の糸がまさか切れるとは思っていなかった炭治郎はその攻撃を正面から受けてしまい、物凄い勢いで吹っ飛ばされた。



(受け身！受け身をとれ…！)



攻撃を喰らいながらも混乱する頭で受け身を取ろうと体を丸めようとするがうまくできない。

満足に受け身が取れないまま炭治郎は地面に体を叩きつけられると浅い呼吸を繰り返した。