第36章 命の順序
音のする方に走っていく白虎だったが、それは少しだけ方向を変えて突然道端で止まった。
ゆっくりと宇髄の方を振り返り地面に視線を向けた。
「この下だ。人間を運ぶことはできない。道案内は此処までだ。」
「いや、此処まで案内してくれりゃ十分だ。あとは自分でなんとかできる。恩に切る。」
耳を地面につければ其処から聴こえるのは大きな音だ。
金属がぶつかり合う音
誰かの声
地面を蹴る音
反響してよく聴こえる。
中には広い空洞があるが、そこを通るには幼い子どもほどの空間しか無いのだろう。
宇髄は六尺をゆうに超える体躯を持つ。
その体をねじ込ませるのには骨が折れると言うもの。
それだけの情報が分かれば後は此方のものだとも言わんばかりに立ち上がると、日輪刀に手をかけて、未だに其処にいて此方をじっと見つめている白虎に向かい口を開く。
「…もう一度聞くが、ほの花は生きてるんだな?怪我はないか。」
「…何故そのようなことを聞く。お前の嫁は無事だ。」
「…教えてくれ。ほの花は…、怪我はないのか?ちゃんと、生きてるんだな?」
「ほの花の命令はお前に嫁の無事を知らせて、場所を伝えろということ。それ以上のことを話すことは出来ない。」
命令以外のことはあまり言えないと言うことか。
先ほどの問いに頷いてくれた時も言葉を発することはなかった。
だが、宇髄は確信にも近いものがあった。
万が一、ほの花が死んでればこの幻獣のようなものを出すことも出来ないのではないかということ。
それでも聞かずにいられなかったのは此処に突入した時、怪我をしていたら俺は真っ先にほの花のところに行ってしまう可能性があった。
頭で考えるより体が反応してしまって。
それをほの花は望んでない。
だからこそちゃんと状況を正確に知りたかった。
真っ直ぐに白虎を見つめたところで揺らがないその瞳にため息を吐く。
(…主人の命令は、絶対か…。あの時のほの花みてぇじゃねぇか。)
思い出すのは"命令だ"と言ってほの花を抱いてしまったあの日。
自分の身に返ってきたような感覚になり、宇髄はため息を吐いた。