第36章 命の順序
「ほの花はお前らと連絡が取れなくなった後に此処に潜入した。……でも、つい昨日…連絡が途絶えた。」
「「…え…!?」」
驚きを隠せないでいる二人を見て、俺自身も未だに信じられない、信じたくない気持ちでいっぱいだと気付かされる。
「…京極屋の蕨姫が怪しいと言うのはほの花と言っていた。その直後に…行方知れずだ。」
今でも鮮明に覚えている。
あの時、振り返ったほの花の笑顔を。
「桜の木を見に行こう」という彼女の言葉を。
呉服屋の女将の話も聞いて、俺のほの花に対する気持ちがだんだんと変化してきたように感じている。
いや、正しくは真っ白な景色が色付いていくような感覚。
それは俺の中の確信にも近い気持ちだった。
きっと…俺はほの花を"ただの継子"だなんて思っちゃいなかった。
ほの花はそれを知っていた筈だ。
でも…受け入れてくれなかったのだろう。
記憶を失ったことで丁度いいと思ったのかも知れない。やたらと俺の妻は雛鶴たちだけだと刷り込むように言ってきたほの花。
俺もそう思っていた。
そう信じていたし、疑う余地もなかった。
ただ思い出すのはほの花を抱いたあの日のこと。
俺はあんな風に酷い抱き方をしてしまったのに物凄く満ち足りていた。
欲しくて欲しくてたまらなかったと心が言っていた。
ほの花は嫌だったのかもしれないが、
俺は…幸せだった。
「だが、ほの花も必ず見つけて助け出す。お前らは此処を出ろ。正宗、動けるか?雛鶴を頼む。」
「は、はい!」
「そのかわり、ほの花のことは任せてくれ。必ず生きて連れて帰る。」
生きてるか
死んでるか
そんなことはこの時点ではわからなかった。
でも、それは俺の希望でもあった。
生きて帰ってほの花と話したい。
話せば分かると思った。
この中途半端に色づいた俺の記憶を全て染め上げたい。
それがどんな記憶であろうと知っていたい。
知ることで分かると思った。
ほの花が俺にとってどんな存在だったのか。
ほの花が俺のことをどう思っていてくれたのか。
全て知りたい。